「屋根裏部屋のマリアたち」
ちょっと魅力的な佳作に出会ったという感じでした。ハートフルであったかくなるようなしゃれたコメディ、そしてなぜかほほえましくなるようなラブストーリー、そのふわぁっとした境界のないおもしろさに曳かれる一品だった気がします。
映画が始まると軽い音楽をバックにスペイン人の気のよさそうな女性たちが自己紹介をしていく。どうやら彼女たちはメイドのようでこれから始まるこの映画の登場人物であろう。そして音楽が次第に盛り上がってきてタイトルは終了本編へ。
1962年、物語の舞台はフランスに暮らす資産家の夫婦。夫ジャン=ルイは父から引き継いだ証券会社を営み、妻シュザンヌは連日友達との遊びにあけくれている。息子二人は寄宿学校にいて生活は夫婦と古くからいるフランス人のメイドのみ。
義母と仲がよくなかったシュザンヌはその死後フランス人メイドとも仲が悪くなりそのメイドを追い出す。入れ替わりに雇われたのがイタリア人メイドのマリアである。
赴任初日、シュザンヌが出かけた後、ごったがえっている室内を整理するために近所のメイド仲間を窓から呼び集めるシーンが実に小気味よくて楽しい。そして、すっかり気に入られたマリアは次第にジャン=ルイ、シュザンヌとも親しくなっていく。
ジャン=ルイの家の上のアパートに住む仲間のメイドたちの部屋やトイレの設備を巧みな展開でジャン=ルイに直させていく陽気な展開がとっても楽しくて、フランス映画独特のコミカルな色合いに次第次第にひきこまれていきます。
マリアの仲間のメイドたちの個性もしっかりと描かれていて、その生活背景もちょうどいいレベルで説明され、それがまた物語にちょっとした深みをもたらす。そこへジャン=ルイがマリアに持つほのかな恋心、シュザンヌがジャン=ルイにもつさりげない嫉妬心もこの軽いタッチの物語にスパイスのようにきらきら光り、この映画の二層三層に積み重ねられた物語に色合いを生み出していきます。
ある日、マリアが離ればなれになっている息子の居場所を知ったために彼に会うためにメイドをやめることを決意、ジャン=ルイと一夜をともにした後イタリアへ旅立つ。そして3年後、イタリアを訪れたジャン=ルイがマリアと再会して暗転。
不倫物語が根底に流れているにも関わらずどろどろにならずに実にさらっとコミカルに処理した脚本が見事で、主人公たちの周りの人たちの陽気さと屈託なさが映画を独特の暖かいものに仕上げていく。このバランスとアンバランスの感じが実によくできた映画でした。ラストにはちょっと胸が熱くなりました。いい映画でした。
「ベティ・ブルー 愛と激情の日々」
ジャン=ジャック・ベネックス監督が1987年に描いた非常に個性的な男と女の物語で、「ベティ・ブルー インテグラル」と呼ばれる1時間近く長くなった完全版も公開されている。
ふわふわと浮遊感を思わせるような映像感覚にまず引き込まれる。しかも色彩のセンス、音楽リズムのセンスなどが
独創的で、シャープな色使いにも関わらずサイケデリックな色のぶつけ合いのような組み合わせではなくあくまで自然の配置にも基づいたかさねあわせた色を積み重ねていく。そして時に透き通るような選び抜いた構図の風景のシーンを挿入、次第に狂気的になるベティの姿を冷淡なほどの視点で映像に描ききる。
物語は小説家志望の主人公ゾルクと一人の少女ベティとの全裸のSEXシーンから画面が始まる。そして濃厚ながら清潔感のあるベッドシーンのあと二人のなれそめが軽くナレーションされて本編へ。
大胆に空間や時間の説明的なシーンをカットし、ベティとゾルクの強烈な愛情の日々を徹底的に画面に押し出してくる。そして、時に感情が爆発してしまうベティの人物像を描写し、その時々のトラブルを身を張って守るゾルクの献身的なシーンが繰り返される。
一見、異常なくらいにヒステリックだがストレートにゾルクを愛するベティを盲目的に受け止めるゾルクの姿は下手に描くと俗っぽい愛憎劇になるところであるがジャン=ジャック・ベネックス監督はそのシャープな映像センスで真っ青な空から何の遮るものもなく降り注ぐ太陽の光のようなイメージでストーリーを紡いでいく。みている私たちにはやや神経質のようでありながらもセクシーなベティに寄り添い、そんな彼女を愛するゾルクに不思議な共感さえ覚える。
しかし、妊娠したと思い驚喜した二人だったが妊娠検査が陰性だったことから次第にベティは狂気の世界に落ちていく。不気味なメイクをして食事のテーブルに座る彼女にシチューを顔に塗りたくって慰めるゾルク。しかしある日、ベティは自らの右目をえぐり、そのまま精神病院へ。そこで薬付けにされ廃人のようになった彼女に耐えられず、女装して忍び込んだゾルクは彼女の顔に枕をあてて死を迎えさせる。
ベティが送ったゾルクの小説が認められ二作目にかかる彼の前に真っ白な猫がたたずむ。ゾルクはその猫に「今構想中だよ」と答える。ブルースクリーンになってエンディング。
ネットのデータベースではベティは流産したとかかれているが、完全版でその説明がなされているのかもしれない。しかしゾルクが妊娠検査結果が陰性というのをみるシーンがあるので、この方が正しいだろう。
いずれにせよ、大胆にシーンをカットしたためになぞめいたシーンが続いたりする部分もあるけれどもそれよりもベティの狂気とゾルクの彼女への狂気的な愛が浮き彫りにされる形になって、その映像の美しさと相まってオリジナリティあふれる一本になっていたと思います。好みの問題もありますが、私は好きな映画です。