くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「結婚」

結婚

昭和22年製作という社会的な背景はさすがに当時を生きてきたわけではない私にはとうてい語ることはできないが、映画としてのこの作品を見ると、なかなかの佳作だったように思えます。とにかく映像のリズムが非常に分かりやすい。

主人公文江と積と、あるいは文江の家族の食事シーンなどはフィックスなカメラと落ち着いた長回しで延々と会話をとらえる。しかし、時に細かくクローズアップのカットを繰り返して映像に弾むようなリズムを作り出して物語を先へ進める、あるいはクライマックスへ引き込んでいくという際だったリズム演出が施される。

また、ファーストシーンで、積が文江に「別れるときに振り返らないで」といって文江から離れる耐えられなく振り返る文江、駆け寄る文江、するっと体を入れ替えて受け止める積など凝った演出や、ダンスシーンでたまらなくなった文江が初めて積とダンスをする。ぎこちないはずのダンスが、曲がハイテンポになるとなぜか流麗に踊っている。ふと足下を映すと文江は積にかかえられて宙に浮いている。

一見、文江と積の恋物語の様相であるが、時に労働者の行進がとらえられたり、闇物資で商売をして繁盛する浩平の後輩の仕事仲間の姿がとらえられ、旧体制の日本が変わりゆく姿を的確に捉える。このあたりはさすがに新藤兼人らしい脚本である。しかしこの新藤兼人の脚本を得て、木下監督が描きたかったことは時の変化を人々は受け入れ前に進んでいかなければいけないというメッセージとして利用したのではないかと思う。

最後の最後、積の田舎の母が危篤で、田舎へ帰るのに文江をつれていきたいと文江の家にくる。結婚をあきらめていた文江であるが、父浩平は自分の今までの堅苦しい考えを改め、新しい時代に立ち向かっていく決心をして文江を新婚旅行として送り出してやるのである。

今にテーブルが並べられ、浩平が一人真ん中に座り大笑いをする。そこへ家族が一人一人集まってくる。そして、旅立つ文江のために妹君子、母ふき子、弟啓二などが階段を上にしたに走って荷物を手伝う。この細かいカットから今のシーンへの転換が実に見事である。

そして、文江を見送る家族、一人雪の中を駅へ急ぐ文江のシーンでエンディング。

新藤兼人の個性が木下恵介の個性と入り交じって、単純な恋物語に終わらせなかったこの作品の深さは必見。当時の経済事情なども的確に描写され、戦後二年とはいえ甘ったるい作品に仕上げなかった木下恵介のバイタリティに拍手したい気がしました。