くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「八月の濡れた砂」

八月の濡れた砂

すでに初公開から40年以上たっている。しかし、画面が写ったとたん、一気に時間が逆戻りし、じぶんの大学生時代にタイムスリップしてしまう。波の音、海岸、砂浜、照りつける太陽、ほとばしる汗、女性の水着、車、なにもかもがまるでついこの間の時のように一気によみがえるのだ。

どうしようもなく行き場のないまどろこしさ、ぶつけるところのない憤り、やるせないほどの性への欲望、それらが画面全体からほとばしりでてくる。藤田敏八監督作品の魅力が爆発する一本でした。

サッカーボールが校庭の真ん中にある。そこにフレームインしてくる主人公野上、そこへやってくる親友の西本。こうしてこの映画は始まる。

西本がバイクで夜明けの砂浜を走っていると一代の車、そこから放り投げられた女性、続いて彼女の下着。ドキドキする導入部からこの映画はみずみずしいほどの青春映画としての魅力を爆発させる。この女性早苗に惚れ込んだ西本だが、どうしても彼女を抱けない。そのもどかしさに親友の野上が奔放にSEXを推奨してくる。

そりゃ、今の方がSEXに対する開放的な意識は当時より遙かにドライになっている。でも、思春期の狭間の一瞬に性に対する一線には独特の、そして神秘的なほどの艶やかさがあるのは昔も今も決して変わらない。そのもどかしいほどの色香が見事に漂っているのがこの作品のすばらしさでもある。最近の映画にはこの艶やかさがないのである。見せればセクシーだと感じているあまりにも慣れっこになってしまった感覚はこの微妙なドキドキ感を描ききれなくなった。

展開する物語はただ、青年か少年かのはざまの主人公たちがどうしようもないいらだちの中でがむしゃらに毎日を過ごす姿を描いていく。カメラの切れやシャープな演出はみごとであるが、ほとばしる汗のショットや開放的な空や浜辺のショットがまるで潮風がにおわんばかりに迫ってくる。

ラスト、義父のヨットを乗っ取った西本と野上は早苗と姉の真希を乗せて海上へ。そこで野上と西本は真希に乱暴し、早苗は散弾銃を撃つ、カメラがぐーんと引いて俯瞰で遙か彼方に海に漂うヨットをとらえてエンディング。このスパッと紋切り型にしたラストシーンは見事なものである。いい映画でした。これが藤田敏八監督作品の魅力ですね。