くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「キューポラのある街」「憎いあンちくしょう」

キューポラのある街

キューポラのある町」
なるほど、これは一級品の名作である。どの部分をとっても非の打ち所がない名作とはこのことをいうのだろう。めちゃくちゃよかった。

まず目を引くのが画面の美しさ。シネスコの画面なのにずーんと奥に広がる構図に驚かされる。しかも、手前に演技をする人をしっかりとバストショットでとらえた背後に鉄橋や列車、川の堤防の景色が広がっている。これはかなりのライティングを施さないとふつうはバックの景色は白く飛んでしまう。それだけを見ても驚愕の画面である。

そして、すばらしいのが一つ一つのエピソード、ストーリー展開にまったくいやみがない。物語はキューポラという煙突が見える中小工場が建ち並ぶ川口にすむ貧乏な一つの家族の物語である。周辺には朝鮮人の家族もあり、差別発言も、貧富の差を生々しく描写するシーンもたくさんあるが、それが非常に健康的であっけらかんとしている。

しかも、希代のカリスマ女優吉永小百合が若干17歳のみずみずしいほどにほとばしる可憐さが画面全体からあふれだしている。そのきらきらとした姿を映しだし一方で弟たちの元気いっぱいの姿がたくましく描かれていく。

日本の高度経済成長期の様々な庶民の生活がリアルに描かれているのに、とにかく人々が前向きで一生懸命に生きている。人間というのはみんなこれほどまでに一生懸命それぞれの生活を生きているのです。そのバイタリティが画面全体から伝わってくる。そんなしっかりとした物語に吉永小百合のさわやかさがほとばしり、芸術的とも呼べる美しい画面が作品を盛り上げてくる。これが名作、それも一級品と緒ベル二本映画史に残ってしかるべき作品だと思います。すばらしかった。


「憎いあンちくしょう」
これはなかなかの痛快な楽しい映画だった。特に目を引くのが浅丘ルリ子のコケティッシュでかわいらしい魅力。まるでフランスコメディのブリジッド・バルドーを思わせるかわいらしさを見せる。

特に石原裕次郎扮する主人公北大作の部屋でセミヌードになって鏡に向かって「いけてるじゃない」とにこっと笑う仕草、びしょぬれになって大作のカッターシャツとズボンをはいたものの、大作に飛び込む際にするりとズボンが脱げるショットの愛くるしくもセクシーなこと。こんなしゃれたシーン、なかなか見られないなと楽しんでしまう。

映画はいたって単純な物語ですが、どこかモダンな雰囲気とテンポで入っていく導入部の展開が実にいい。ジープを九州に届けるためにすべての仕事をキャンセルした売れっ子キャスター北大作を追ってオープンカーのジャガーで追いかける浅丘ルリ子扮する典子。追っかけドラマのような展開ですすんでいく物語に、つきあって2年たって倦怠期になった二人の恋人の愛の確認劇が絡んでいく。

ラストは唐突にヘリコプターでやってきた遠距離恋愛の女性美子と九州の彼氏小坂。いったい大作と典子の苦難の物語はなんなの?というものの、しっかりとしたストーリー構成と手を抜かない演出で見せていく映画のリズムが実によくて、とってつけたハッピーエンドも受け入れてしまう。これが本物の娯楽映画のおもしろさだなと拍手してしまう自分がいる。本当に楽しかった。