くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「武士道残酷物語」「哀しき獣」

武士道残酷物語

「武士道残酷物語」
夜の町を救急車が走ってくる。病院に運び込まれたのは主人公飯倉進のフィアンセで、睡眠薬自殺を図ったという。病室に駆け込んだ飯倉のアップでタイトル。そして、彼が学生時代に故郷で調べた彼の家系の過去を語り始めるところから物語がはじまる。

藩のため、主君のため自らの命だけでなく誇りも捨て、妻さえも、娘さえも犠牲にすることをいとわない被虐的なまでに極端な家族の歴史。その物語がオムニバス調に江戸時代から明治、現代に至るまで描かれていくのであるが、そのあまりにもふがいなくやるせない主人公のかみしめた生きざまはみている私にはストレスの連続であった。これが日本人の典型的なあり方と捉えた極端なステロタイプ化こそが映画としてのフィクションとしての映画のリアリティかもしれません。

そして、そこにみる今井正の視点はあまりにも冷淡かつ突き放すほどにクールにさえ見えてくる。悪く言えばそういう日本人の生き方に対する軽蔑さえも見え隠れするからどこか恐ろしい物がある。
異様なまでに極端に主君に使える主人公、それは自分という人間性を捨てて、国を作らんとしてきた日本人の考え方への冷たい批判であるようにも見える。そして、それを美学とはおせじにもみられるショットは皆無なのだ。

そして、過去を語り終えた主人公飯倉進は目を覚ましたフィアンセの前で、「自分たちだけで結婚しよう」とようやくそれまでの飯倉家の主人たちの生き方を放棄し新たな世界へと踏み出そうとする。かすかな希望でしめくくっただけこの作品に救いがあるが、このラストシーンまではどうにも耐えられないくらいでした。

画面の展開はいつもながら今井正の映像表現に終始し、時に俯瞰で見上げたショットや汗にまみれた様子までが手に取るように見せるクローズアップ、さらにはるかに視点を持っていくように見据える人物のショットなどぐいぐいとそのテーマを訴えかけてくる迫力はさすがに傑作と呼べる作品らしい貫禄があります。非常に優れた一本ですが、私個人としてはあまり好きな映画とはいえない結果になりました。

「哀しき獣」
韓国バイオレンス映画の典型のごとくむせかえるほどの血糊がほとばしるシーンの連続で終盤はもう酔っぱらったようになってしまった。その上、ストーリーの組み立てが実に複雑にからみ合ってくる。一見ストレートなストーリーとしてグナムの物語のごとく見えるが、最初はただ金のために韓国に潜入し殺人を起こすだけかと思いきや、殺す寸前に別の組織が殺害、その様子を見てしまったためにその組織からも狙われ、一方ターゲットの指を切り落とすためにもたついたために真犯人と間違われ警察にも追われることになる。さらに、北朝鮮の組織からも狙われるようになり、そんな中で行方不明の妻を捜し、最後には北朝鮮へ帰る船の中で傷ついたグナムは息絶える。

ピストルが一切登場せず、ひたすら殴り殺す、斧でたたき殺すという悲惨な殺し方で血がほとばしるのに必死でついていく上に、絡んでいくストーリー、さらに似通った登場人物の名前とかなり疲れる作品である。ナ・ホンジン監督作品の前作「チェイサー」はあれはあれでかなりミステリアスなシーンの連続に引き込まれたという印象があるが、今回は途中から物語というよりもひたすら殴りあうバイオレンスシーンの連続という印象に終始してしまいました。

そのために背後に張り巡らされた真実についての謎解きのような伏線や主人公グナムの悲哀が薄れてしまって、見終わった後胸焼け状態で、エピローグの女性が汽車を降りてくるシーンのころにはどうでもよくなっていたという感じでした。
ただ、ここまで徹底した世界観で描ききったナ・ホンジンの演出手腕の実力は相当なものだと思うし、ほんのわずか客観的な視点が加えられれば見事な作品を連発していくのではないかと思えます。作品レベルは相当だと思うもののいかんせん、あの韓国映画的バイオレンスは好きになれない。