くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「北のカナリアたち」「黄金を抱いて翔べ」

北のカナリアたち

北のカナリアたち
木村大作のカメラが抜群に美しい。それをみるだけでもこの映画を見た甲斐があったと言うべきである。しかも、一番美しいショットをとるために途方もない時間を待っているという今時珍しい贅沢なことをしているのが目に見える。まさに大作らしい映像に心奪われる。

舞台となる分校の彼方に見える利尻富士のもやに浮かぶショットや、雪に覆われた美しい円錐形の景色、港に横付けされる船のアングルの彼方に見える北の海の不気味な色彩。子供たちが歌を歌いながら草原を歩くときの緑の中にちらほらと浮かぶ黄色い野草の美しさ。波の波形に反射する空の光が不思議なほどの縞模様を映し出すショットなど、カメラの特質を知り得た者だけが生み出す映像美の極致を体験することができるんです。

物語は現代に写される「二十四の瞳」的なストーリー。かつて稚内の分校で教師をしていた主人公川島先生はまもなくつとめている図書館を定年退職する。そして自宅に戻ると刑事がやってきてかつての先生の教え子鈴木信人が勤め先の社長を殺して逃亡しているという。なぜか彼の部屋に川島先生の住所がおかれていたことからやってきたという。

こうして川島先生がかつての教え子を訪ね、なぜ鈴木信人が先生の住所を知っていたのかを聞いて回る一方で、先生と生徒たちの過去が語られていくのだが、どうも大人になった生徒たちのドラマが今一つ希薄で厚みがないために、ラストですべての感慨が一気に感動に変わる迫力に持っていかないのである。

分校時代に川島先生の生徒の一人がなぜ声がでなくなったか、なぜ先生のご主人が死んだか、なぜ、先生は子供たちをおいてでていったか。なぜなぜがちりばめられているがそれが今一つ怒濤のようなドラマ性を帯びてこない。さらに吉永小百合仲村トオルと不倫になっているという展開が弱いし、吉永小百合にそういう役柄はリアリティを壊すだけの結果になっている。

クライマックスは島に帰った鈴木が捕まり、最後の頼みでかつての生徒たちが分校に集まって先生と歌を歌う。ええ?これは余りに薄っぺらい展開やなぁ、と思っていたら、連行され船に乗る鈴木を生徒たちが見送り感動の大団円へ。でも、先生が鈴木に分校で待つようにと電話で伝えたことと、先生がかつての生徒を訪ね回る展開はどっか矛盾してないかな?とも思えたりする。

ストーリー全体は実に淡々として、しかし重々しい緊迫感はあるのだが、どこか物足りない。寒々した北の景色のショットが美しいために作品が格調高くなっているが、演出にそれが生かされていない気がする。良質の作品ではあるが阪本順治監督には苦手分野だったのではないかと思える一本でした。


黄金を抱いて翔べ
原作はさすがにちょっと時代を感じさせて、間延びするところがあるのですが、その欠点を見事に克服したというか、映像として作り直した娯楽映画として完成されて居ました。ものすごく面白かったし、ラストもすごく良かった。

物語展開の切れが抜群にシャープで、どんどんストーリーが進んで行く一方で登場人物の背景が的確に盛り込まれていく演出が秀逸で見事。
主人公の一人である妻夫木聡扮する幸田がやたら腕力が強くて爽快であるし、浅田忠信扮する北川ものほほんとしているようで、びしびしとポイントを抑えて登場人物をまとめ上げて行く。北朝鮮からきたモモのキャラクターもその背後の政治的な不気味さもさりげなく取り込まれ物語に面白さと味をもたらしてくれ、決して単調な犯罪映画に収めてしまわない丁寧さが非常に見せてくれるのです。

映画が始まると、北川がなにやら叫んでいる。そして物語は一気に幸田や野田、モモらが集まってきてすでに計画はどんどん進んでいる風で物語は一気に本編へ。そして、登場人物の背景がちらほらと描かれ、一方で犯罪計画が少しずつ前進して行く。スタイリッシュな犯罪映画ではなくあくまで、素人くささと泥臭さが満載の展開が細かいカットの展開でどんどん突き進んで行く。このやんちゃさが井筒和幸監督の味であるし、前作「ヒーロー・ショー」でも見せた面白さなのです。

そして、クライマックス、いざ計画実行となれば、ミスはするものの派手な爆薬シーン、北朝鮮工作員らしい人物にモモが殺され、て傷を負った幸田と北川が地下金庫へ潜入し、金塊を略奪するくだりも実に泥臭いが、どこかリアリティさえ感じる。しかし、ここがピカレスクロマンというか日本的なのが、最後の最後で実はエレベーターの技術者であるジイちゃんが実は幸田の父親だったという展開。そして聖書をおいて首をつった姿を幸田が発見するくだりへの切り返しは実に見事なものである。

結局、幸田はて傷が元で屋上からうまくロープで降りられず転落死。金塊を盗んで無事だったのは北川と野田のみ。

本来、韓国から香港へ逃げる段取りがモモの死でどうなったのか、北川が幸田を包んだらしい死体を川に沈めてエンディングとなる。おそらくあの死体には幸田の取り分の金塊がまきつけられているのだろうという想像を残してエンディングである。

ハイテンポなストーリー展開、人物描写の巧みさ、そしてこれでもかというエンターテインメント性。それぞれがとっても楽しく組み合わされた娯楽映画の傑作でした。いやぁおもしろかった。