くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 」「つやのよる

ライフオブパイ

ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」」
アン・リー監督の3D作品で、その効果が非常に高いという噂を信じてIMAX3Dで見てきた。確かに3D効果は高いと思うが、強いてその効果が作品に生かされたかというと疑問でした。

インドにすむパイの家族は動物園を経営している。しかし、動物を売却しカナダに移住する計画を立て北米で動物を売却するために輸送船に動物を乗せて太平洋へ。ところが嵐に遭い船は沈没、一人生き残った少年ピシン(パイ)は漂流船にのって漂流する。ところがその船の中にはベンガルトラのリチャード・パーカーが同船していたという物語。

映画は大人になったパイが小説家の取材を受けて自分の幼い頃から語り始め冒険物語へと進んでいく。その根底に流れるのは東洋的な宗教メッセージであるように思える。少年シーンはどこかコミカルなところがあり、三つの宗教を信じるなどの話が展開する。この導入部はこのあとの展開を見てから回想するとどこか童話の冒頭のお話ににているように思える。

そう考えるとこのあと、漂流するシーンが非常に非現実的で作り物のような映像で描かれるのは、主人公パイの空想の産物を描いているんだと思えなくもない。そして、虎との漂流物語は見えない巨大な力、いわゆる神のなせる試練であり、それを克服していく少年のいわゆる教訓話ととれなくもないのだ。

デジタル映像だからあれほどセットのようなシャープさが見られるのだといえばそれまでだが、それにしても、まるで海の大きさが見えないし、まるでプールの隅で撮影されたような構図と静止画面で平然ととっている。そこで描かれる獰猛な虎と少年のサバイバルストーリーはただの冒険活劇なのだ。しかし、時に巨大な自然の力が襲ってくる。鮫、光輝くクラゲ、鯨、そして飛び魚などなど動かしがたい、御しがたい巨大な物によって人間は生かされているんだといわんばかりである。

終盤にたどり着く人食い島は遠景でとらえたときのシルエットは横たえたお釈迦さんの姿のごとくで、明らかにメッセージが見える。神は一時の休息を与えたが、それに甘えるとすなわち死を与えるといわんばかりなのだ。

そして、無事メキシコにたどり着いたが虎は忽然とジャングルの中に消えてしまう。いったい、本当に虎と一緒だったのかとさえ思える。200日以上も漂流していたパイの幻覚だったのではないかとさえ思えるのだ。

保険の調査員に詰め寄られてもう一つの作り話を流暢に語るパイの姿を見るに、この少年の想像力豊かな童話だったかととらえることもできるかもしれない。しかし、これは考えすぎだろうか。

結局小説家にはどちらの話を信じるかと問い、小説家は虎の話を信じると答える。そこへ、愛するパイの妻と子供が帰ってきてハッピーエンド。

見せ場の連続で見せるアン・リーの演出は今更ながら、あえて試みた嘘っぽい漂流シーンの映像はこの作品になにか隠れたメッセージを語らせているように思える。3D映像にチャレンジした演出スタイルゆえにそれが独特の個性的な画面作りにつながった感じで、その点は評価してしかるべき一本でした。


「つやの夜 ある愛に関わった女たちの物語」
一人の女性艶にかかわった様々な男性とその男性を取り巻く女性たちの物語を通じて、男から女への愛、女から男への思い、恋、愛情の本質を語っていくいわばオムニバス調のお話である。この手のパターンが得意な行定勲らしく、この作品もなかなかの秀作でした。

一人の男松生が自転車で坂を上ってくるシーンに映画が始まる。余命わずかな妻艶の見舞いに向かうのである。すでにモルヒネを打たれ痛みを押さえているものの意識がなく横たわるだけである。松生は彼女の叔父に当たる一人の男に電話をしているところから最初の話が始まる。

こうして、艶の処女を奪った男、艶の愛人だった男、艶の元夫、艶がストーカーをしていた青年、と関わった男の物語に絡めて現代のそれぞれの男に関わっている女性、妻、恋人、愛人の物語が描かれていく。時折松生が自転車で坂を上るシーンが描かれ、途中でいつも磯で遊んでいる少年が声をかける。

最後は松生のかつての妻の話になる。艶と駆け落ちをして大島に行った松生の今を知るために元妻と娘が大島にやってくる。艶の病室に入った元妻は艶の胸を開いてみると乳房の回りに松生が愛撫した後を見つける。このシーンの何とも艶やかなことか。

そして艶の死。葬儀の場にかつての男は誰も現れず「愛したのは俺だけだ」とかたる松生。そこへ病院で担当していた看護婦と磯で遊んでいた少年がやってくる。二人は親子だった。そして少年が艶の顔を見せてといって「きれいだね」とつぶやく。このワンシーンがすばらしい。ここでなぜか胸が熱くなるのです。こういうスパイスの効いたカットをなかなか入れられませんね。

三人がお棺のまどからのぞくショットでエンディング。

行定勲の絶妙のバランスのオムニバス演出がさえ渡り、そのテンポ、強弱、構成が絶妙にクライマックスへ引き込んでいく手腕はさすがです。なかなかのいい映画でした。