くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け」「相棒シリーズ

キングオブマンハッタン

「キング・オブ・マンハッタン 危険な賭け」
ころころとストーリーが転がっていくので冒頭からぜんぜん退屈せずにみることができる。しかも内容は実にシリアスでしっかりと組み立てられているために骨太のサスペンスとしても通用する。監督はニコラス・ジャレッキーという人で、今回が長編デビューらしい。

主人公ロバートがテレビのインタビューを受けているハイテンポなシーンから映画が始まる。投資会社を経営して成功した彼は時の人として紹介されたのである。

そしてタイトルのあと自家用飛行機で会社へ戻る彼のシーンにつながる。銅鉱山の相場が危うくなっている旨のニュースが聞こえる。実はロバートはロシアの銅鉱山に投資しているのである。一方で彼は会社を大銀行と合併させるべくメイフィールドという人物とコンタクトをしている。

導入部で一気に物語の核心のエピソードを小気味よく紹介するうまさはもちろんだが、カメラの動きも実に美しくスピーディなのです。それに常に動き回るリチャード・ギア扮するロバートの姿の捉え方も実にテンポがいい。

そして、本編のキーポイントになるのがロバートとその愛人ジェミーのエピソードである。彼女は画廊を経営しロバートのバックアップもあって夢を叶える寸前になっている。しかし、合併の話が前に進みにくい上に、帳簿を操作して利益改ざんしている点をカバーすることなどで奔走するロバートはなかなか彼女とゆっくり過ごせない。そして、運命の事故を起こしてしまうのである。

物語はこの事故で愛人のジェミーが死んでしまい、合併その他を滞りなくするために自首せずに自分に恩義のある従業員の息子の黒人ジミーを巻き込んだところからさらに複雑にからみ始める。この黒人の人物像を詳しく語らなかったのがこの映画の脚本の弱さかもしれない。突然登場したこの男の素性に戸惑ったのも確かなのですから。

ほとんど飽きさせないほどに次々と物語が前に前に展開していくおもしろさが、このあたりからさらにエスカレートしていくのは絶品である。そして、ロバートが単なる利益のために隠蔽を画策しているのではなく家族や従業員の生活のためでもあるのがまんざら嘘ではないように見えてくる。リチャード・ギアが娘に帳簿の不備を指摘されて感情的になる下りの演技がすばらしい。

後半はサスペンス色がさらに強まり、何とかロバートを逮捕しようとする刑事の証拠ねつ造なども絡んできて奥深い展開へ進む。そんな追求を巧みに交わしていくロバートの行動もまたみごとで、一人の父親としての人間像さえ見えてくるのである。

合併の条件として、娘の社長就任と出来の悪い息子を副社長に頼むあたりはあまりに練り込んだ脚本に頭が下がる。そして、最後の最後妻から慈善団体への寄付を求められて、妻が夫の不倫に復讐する下りへと流れていくところもみごと。

クライマックスは慈善パーティの会場。警察もロバートを追いつめる方法に尽き、合併も何とか片を付け、スピーチの場所へ向かうロバート。壇上で娘と抱き合いスピーチというところでエンディング。果たして彼の家族はこれからどうなるのか?まともな治療せずのままの事故の時の左胸のけがはどうなるのか?未来の一抹の不安を残して映画が終わる。すばらしいエンディングである。手放しで傑作といえないまでもしっかりとしたストーリーの組立、カメラワーク、リチャード・ギアの演技それぞれが秀逸な佳作だったと思います。


「相棒シリーズ XDAY」
「相棒」シリーズのスピンオフ作品ですが、元々のテレビシリーズの質が高いので、相当のハイレベルな映画作品にしないと差別化が見えない。今回の映画版はレギュラーキャストながらスピンオフにしたことで自由度を増そうと考えたのでしょうか、それなりにおもしろい映画でした。

監督は和泉聖治監督から橋本一にバトンタッチしているがテレビ版の橋本一監督作品がなかなかの佳作が多い中で、十分その手腕を発揮しているように思えました。

夜空から燃えた一万円札が舞い降りてくるところから映画が始まる。地面に投身自殺したらしい男のショット。この死んだ中川という男がネット上に流していたデータを巡るサイバー犯罪と金融危機をシミュレーションしようとする政府の思惑とのからみで物語が展開する。

例によって捜査一課、二課、等のせめぎ会いと警察庁、警視庁、政府との力関係の駆け引きも物語の中で展開する。

カメラはハイテンポとスローテンポを繰り返しながら、中身の濃いストーリーを紡いでいくが、時々遊びすぎたショットが鼻につくのがちょっと残念。しかも、クライマックスの一万円札が舞い上がる演出は今更ながらリアリティを逸脱しすぎているように思えるのもちょっともったいない。

まぁ、テレビシリーズのスペシャル版でもこのレベルの作品にお目にかかるので、映画版では相当なハイレベル化を試みようとしたためにちょっと鼻につくカットが散見してしまったのだろう。とはいえ、単純に飽きることなく最後までわくわくと楽しめるサスペンス映画としては成功していたと思います。