くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「太陽の墓場」「明日の太陽」「愛と希望の街」「悦楽」

太陽の墓場

「太陽の墓場」
二年前に見た作品の再見であるが、さすがにすばらしい傑作である。

極端な顔のクローズアップ、這うようにパンするカメラ、長回しによる緊迫感を絶妙のリズムで組み合わせていく大島渚の演出が秀逸。汗くさく、むせ返るような釜ヶ崎のドヤ街にすむ底辺の庶民たちのもの悲しくも必死でいきる姿が圧倒的な迫力で迫ってくる。

どうしようもなく突っ走る若者たち、かつての栄光におぼれる男たち、ただ、その日をいきるために死にものぐるいで商売をする人々、すべてがエネルギッシュに息づいている。

人々の息づかいさえもが、汗のにおいさえもがスクリーンからにじみ出てくる恐ろしさにただただ圧倒されてしまった。何度見てもこれは傑作である。脱帽。


「明日の太陽」
大島渚監督のデビュー作であるが6分という超短編で、いわゆる新人俳優の紹介映画である。
ジャンプカットを多用して次々と小気味良く紹介していくテンポが軽快で楽しい。

真っ赤な傘をかぶった十朱幸代が次々と俳優を紹介。屋上から飛び降りて砂浜を走ったり、バーで銃を撃ったり、ダンスしたりと宣伝フィルムながら本当にたのしい。


「愛と希望の街」
一見ほのぼのとした人情ドラマのように幕を開けるのであるが、終盤、一気に大島渚の辛辣な視点が全面に飛び出してきて一気にラストシーンへ流れ込む。非常にシリアスな社会ドラマのムードが漂う秀作でした。大島渚監督長編デビュー作です。

一人の少年正夫が街頭で伝書鳩を売っている。その鳩をいかにも金持ちの女子高生くに子が買うところから映画が始まる。
この正夫、妹は知恵遅れで母は靴磨きをして生計を立てている。伝書鳩は売ってもまた戻ってくるのでそれを詐欺のように繰り返しているのである。

そんなことと知らずこの正夫に同情したくに子はことあるごとに正夫の力になろうとする。
くに子の父は大手電気会社の重役でり、兄もまたそこの社員である。就職を探す正夫のために地方からしか採用しないこの会社の就職試験を世話するくに子。

カメラは実にほのぼのとフィックスに構えて左右シンメトリーな構図を多用。正夫とくに子の姿もほとんど平行の位置でとらえていく。ここに正夫の応援をする担任の女教師も絡んでくる。

ところが就職試験に正夫は落ちてしまう。なぜか?会社の身元調査で正夫が鳩を売ることを繰り返していたのがばれたからだとくに子の兄がいう。ここから一気に物語は辛辣な展開になる。

カメラは斜めの構図にがらりと装いを変え、クローズアップが多用され、女教師とくに子の兄との関係さえも俯瞰で見上げるような演出がなされる。

兄も女教師も最初は正夫を非難するが、その背景にある、やむにやまれない貧困層の現状に目がいかない。しかし、女教師は自分が実に薄っぺらな考えであったことに気がつきくに子の兄と別れるのだ。

正夫も鳩の小屋を破壊してこれまでの行動、生活に当たり散らす。

一方くに子も最初は非難するも、また街頭ではとを売っている正夫のところにいき鳩を買う。そして、鳩を飛ばして兄に銃で撃ってもらう。そして映画が終わる。

淡々と人情ドラマとして描いた物語が一気になだれ込んで貧困層に対する鋭い視線へと変わっていく厳しい描き方が実に見事で、これこそ大島渚かとうならせる作品であったように思う。


「悦楽」
山田風太郎の原作を元に描くサスペンスミステリーである。

映画は結婚式の会場に始まる。かつて家庭教師で教えた匠子の披露宴に主人公脇坂が招待された。彼は匠子が好きだったのだ。ところが脇坂は愛する匠子のために、彼女をかつて辱めた男を両親の依頼で殺したのである。ところが、彼女への愛は成就せず結婚式の招待状が届いたのだ。

一方、脇坂は殺人を犯した直後、殺人を目撃し、さらに公金横領をした男速水から刑務所を出所するまで預かってくれと三千万円を託されていた。匠子のことでやけになった脇坂は宮坂が出所してくるまでに金を使いきってやろうと決心し、次々と女に手を出し始める。期限は一年である。

ヤクザの親分の愛人だった女にはじまり、貞淑な人妻、女医、そして最後は口の利けないが男好きの女。

めくるめくような妖艶なシーンをオーバーラップを多用したカメラで描き、時に匠子を幻覚のように挿入するというシュールな映像も駆使して主人公脇坂の奇妙な人生を描いていく。

脇坂が出会う女のどこか不幸ながらも、金を見せられていともたやすく脇坂の愛人になるという理不尽ながらもどこか哀愁の漂うような展開もまた大島渚らしい主題といえる。

最後の女との縁の切れ目に、その女の愛人の男から刑務所で知り合った宮坂に三千万預けた男の話を聞き、その男を捜しているということを知る。宮坂はすでに刑務所で死んだと聞いて自分がその預けられた男だと脇坂は白状し、すでに金はないというと、その男はピストルを脇坂に向ける。しかし、女の邪魔が入りその男は死んでしまう。

金もなくなり、元の住まいの下宿に戻った脇坂のところに匠子がやってくる。夫の会社が倒産寸前で金がいる。そのためには何でもするというがすでに金がないと告げると匠子も去っていく。

翌朝、一人歩く脇坂に刑事がやってきて五年前の殺人と公金横領についての逮捕状を見せる。誰が通報したのかというと匠子だという。皮肉きわまりないラストシーンで一気に締めくくってエンディング。

原作の味もあるだろうが、大島渚らしいクローズアップも多用し、導入部のシュールなカットで実験的な映像も駆使した演出が実にミステリアスなムードに色を添えている。さすがに並の映画と一線を画したような感のある佳作でした。