くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「セデック・バレ 第一部太陽旗 第二部虹の橋」

セデック・バレ第一部太陽旗

まず第一に、非常におもしろかった。「第一部 太陽旗」「第二部 虹の橋」の二部構成ながら4時間36分という長尺。にもかかわらず、ぜんぜん飽きることなく、ラストシーンまでスクリーンに釘付けになるのである。物語の展開がスピーディであることもそうだが、大胆なカメラワークを駆使して描く戦闘シーンが目を見張るほどすばらしいし、映像センスがいいのか、一つ一つのシーンが非常に独創的で美しい。それは戦闘シーンで一人また一人と死んでいくショットにさえも見られるのである。ハリウッド映画のような物量シーンにも見えるが、ただ、派手なだけではなく美しいのだから、次々と首が飛んでも目を背けることがないのである。

さらに、霧社事件という日本軍の圧制による台湾原住民の反乱という、歴史の真実を描いているにも関わらず、非常に史実を重視した物語に終始し、もちろん日本人の卑劣さをステロタイプ化している部分もなきしもあらずだが、決して行き過ぎないのである。強いて言えば、やや演技が雑かもしれないが。

いずれにせよ、史実を描いた人間ドラマである上にエンターテインメントとしても一級品に仕上がっている。その意味で久しぶりに傑作に出会った感じがしました。

時は1985年、日清戦争で清国に勝った日本は台湾を統治下におくことになる。映画は、台湾の山奥で後の主人公となるセデック族のモーナ・ルダオが仲間と狩をしているシーンに始まる。スピード感ふれるカメラワークで獲物を射るが、直後、ライバルの部族と衝突、苅り場を荒らされたと怒る部族の攻撃をかわして、モーナは相手の首を取り逃げ通す。

このシーンに交差して、日本が台湾統治のために、警察組織を台湾に派遣していくシーンが繰り返される。細かいテンポでどんどん物語が進み、モーナが父から勇者として認められ、証の入れ墨をされる。そして時がたつ。

日本は霧社と呼ばれる行政機関を設置、学校や郵便局などを整備し、台湾原住民との婚姻もすすみ、次第に日本人と台湾原住民との入り交じった時代となっている。モーナはセデック族マヘボ社の頭目として、君臨していた。しかし、派遣されている一部の日本人による台湾原住民への圧政がセデック族に徐々に不満を生み出している。

そして、とうとう霧社で行われる運動会の日に、モーナ率いるセデック族が運動会を襲撃。日本人を殺戮するまでが第一部、太陽旗である。

台湾原住民の部族間の確執や、そのしきたりなどを丁寧に描写し、時に民族的な歌声や原住民の踊りを挿入する手の込んだ演出が続き、クライマックスの戦闘シーンへ流れる展開が実に見事。たくさんの銃を背中に担いで走るモーナが、戦闘の後、死体の散らばる運動場の国旗をあげる場所に座ってカメラは大きく俯瞰で引いていく。この作品の特徴の一つに大胆なカメラワークがあるが、このクライマックスはすばらしい。


そして第二部は、霧社事件の後、日本軍が反抗してくる中を、ゲリラ戦で迎え撃つモーナたちの戦闘シーンがほとんど終盤まで描かれる。それも、狭い山奥の道や、崖道、河原を巧みに使ったモーナたちの攻撃に翻弄される日本軍のシーンが、本当に巧みに描かれていくので、群衆版の「ランボー」の如しなのである。

しかし、一方で、男たちの身勝手な自尊心を少なからず非難する女たちの描写も忘れずに挿入。さらにモーナと行動をともにしなかったかつてのライバルの部族が日本側についたりと、台湾原住民の複雑な心境も丁寧に描いていく。そして、男たちの長期的な戦闘のための食料を残すために、女たちが自害するシーンも悲惨で、森の中で次々と首をつる場面は壮絶である。

日本軍を翻弄していたモーナたちも次々と戦士を失い、最後の決戦の場面がクライマックスへ。
日本軍の作戦基地へ突入していく戦闘シーンが、この作品の最大の見せ場で、横にハイスピードで走るカメラ、俯瞰で大きく全体をとらえるショット、一人また一人と倒し、倒されるシーンを様々な演出で見せていく手腕、さらにCGであるものの派手な爆破シーンを随所に挿入し、それも美的にとらえるカメラ演出もすばらしい。

一つ一つ取り上げるときりがないほどに多彩な映像演出を施した戦闘シーンの後、エピローグとして、モーナ・ルダオの家族のその後と、モーナ本人が数十年後に白骨として発見される下りなどまでナレーションされて映画が終わる。

エピローグでは村に帰ったモーナの息子たちが、わずかに残った女たちに投降をすすめ、自分たちは自害するシーン。投降を進める真っ赤なビラが桜の花びらのようにジャングルの中に飛行機から撒かれる芸術的なシーンもすばらしい。

全体に、それぞれのエピソード、シーンの構成、配置のバランスがうまく、しかも細部に至るまで丁寧な演出が施されているために、史実に基づいたフィクションであるが、非常にリアリティがある。その上、映像づくりにも凝っているのだから、見ていて本当に充実した内容を味わうことができるし、人間ドラマにも胸打たれるのである。そして、娯楽映画としてもおもしろい。作品の完成度が極めて高い秀作でした。本当によかった。