くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ベルトルッチの分身」「殺し」「革命前夜」

ベルトルッチの分身

ベルトルッチの分身」
ベルナルド・ベルトルッチ監督の初オールカラー作品で、いままでソフトの発売もなかったフィルムが公開された。

映画が始まると、カメラが一本の木を映し、引いてウィンドウの中に入ると喫茶店、一人本を見る主人公ジャコブのショット。本にはピストルが挟まれている。お茶を飲んで外に出かけるが、出たはずのカットからジャンプショットで向かいの家に。つなぎの駒を微妙にカットして一瞬で動いたようなカットが頻出します。

向かいの家に入ると、部屋に回転する羽のようなものの影が映っている。メトロノームの音が響いている。そこでピアノを弾いている青年をピストルで殺して、ジャコブはその部屋を出る。そして教授のパーティへ。そこで好意を持つクララに会いに行くが、断られう。それでも無理に入り込んで、歓談の下でしゃべったり、特異な映像演出が頻出する。

帰り際、ジャコブの目の前に一人の巨大な影、そして彼とうり二つの分身が現れ、奇妙な会話が始まる。
家に変えると黄色のベッド、山積みされた本、濃紺の壁と鏡など不思議なセットに食い入ってしまいます。

何ともシュールな展開と映像に、翻弄されていくのであるが、シンメトリーな画面づくりや、「ベトナムに自由を」などのメッセージ色のある色彩演出、シュールな映像で繰り返しで語る時間の演出など、後のベルトルッチの作風が見受けられる。

ストーリーと言うより、ジャコブとその分身の不可思議な行動と会話が独特のカメラ演出でどんどん描かれていく。分身がバスの中でクララを絞め殺す、さらにもう一人の女を洗濯機に放り込んで殺す。

最後の最後に、分身が観客に向かって「誰にでも自分の理想型である分身が存在し、あなたの身近にいる」と語る。そして分身は窓の外へ、それを追いかけるジャコブ。フレームアウトし、エンディング。
かなり、意味不可思議な作品で、正直ストーリーを追いかけるのはしんどいが、冒頭のピアノのある部屋の影の演出など、どきどきするほどに映像が魅力的であり、教授の家の前のシーンが舞台のような配置でカメラに捕らえられたり、鏡に話しかけるじゃこぶがいつの間にか分身と入れ替わったり、かなりの技巧的なシーンもたくさんある。

ある意味難解だが、感覚で映像を楽しむには本当に面白い作品でした。


「殺し」
ご存じ、ベルナルド・ベルトルッチ監督デビュー作で、ピエロ・パオロ・パゾリーニが原案を作ったサスペンスミステリーである。

映画が始まると陸橋を見上げるショット。陸橋の上から破られた新聞らしいものばら撒かれる。カメラが引くと一人の女性が河原に死んでいる。彼女は娼婦で殺されたのである。

カットが変わると一人の青年ルチアーノが警察の尋問を受けている。物語はここから、警察が娼婦殺害事件の目撃者を尋問していく展開となる。

最初の青年ルチアーノはカップルをからかったり、こそ泥をする若者、次に高利貸しをする母の娘の愛人の金髪の男ニーノ、ナンパばかりしてるだけの狙撃兵の兵士、さらに、女の子と遊ぶ金ほしさに一人の同性愛の男に近づくふたりの青年ピピートとフランコリッキオ、木のサンダルを履いて夜の公園を走り抜けた男を園同性愛の男は目撃した。と、次々と証言を写して行く。

証言のシーンの描写のたびに、この娼婦が出かける寸前の身繕いをする雨の夕方のシーンをくり返し、さらにそれぞれの修験者の夜の公園での姿を重ね合わせて行く。

当然、ミステリーだから犯人が最後に明らかになる。猫を抱いて走り抜けたと言った木のサンダルをはいた男、この男が河原で娼婦を殺すところを同性愛の男が目撃していた。そして、実は娼婦のハンドバッグを抱いて公園を走り抜けていたのだと真実が語られ。
同性愛の男の証言で警察が犯人を追い詰めて行く。ダンスホールで大勢が踊っている中で、木のサンダルの音で犯人を見つける同性愛の男。そして、警察が逮捕してラストシーンとなる。

サスペンスの組立は、ある意味よくあるパターンながら、それぞれの証言の再現シーンを微妙な感覚で長短をつけ、リズムを持たせて展開して行く手腕はさすがにベルトルッチである。そして、そのたびに繰り返される雨のシーンや、夜の公園の静けさが、さらにスリリングな映像を生み出していく。

非常にわかりやすいミステリーで、娯楽映画といえばそうですが、映像のカットのつなぎ方などはベルトルッチ独特の駒落としが見られ、スピード感あるリズムでうまくまとめあげられていました。おもしろかった。


「革命前夜」
ベルナルド・ベルトルッチの長編第二作目。これは非常に素晴らしい作品でした。カメラテクニックの面白さも絶品で、クローズアップの多用、オーバーラップによる人物の動きの繰り返し、ベンチを使ってカメラの移動と人の移動をたくみに移し変える演出、パートカラーで見せるはっとするような演出、等々ベルトルッチならではの独創的な完成によるカメラが特に優れている作品で、物語の面白さをさらに引き立てる演出に引き込まれてしまう傑作でした。

映画が始まって、主人公ファブリツィオがこちらに向かって走ってくるアップ。婚約者クレリアと別れる前にもう一度会おうとかけてきたのである。途中に親友アゴスティーノに出会う。ところが、アゴスティーノが死んでしまう。

そんな時、ファブリツィオの叔母のジーナがファブリツィオの家に滞在。やがてふたりは愛し合うようになるというのが物語の本編である。

許されない恋に悩みながらも愛し合うふたりだが、ジーナが見知らぬ男と歩いているのを目撃したファブリツィオは嫉妬、激怒する。そして、それをきっかけに疎遠になってしまうふたり。

時がたって、オペラの会場のシーン。ファブリツィオは婚約者クレリアと見に来ている。一階ではジーナも見に来ている。ふたりはそれとなく探しあい、ロビーで出会う。今でも愛している二人だが、これで良かったとかたるジーナの表情が非常に切ない。そして、結婚式で幸せなふたりを見送るジーナは、ファブリツィオが去った後涙に暮れてエンディング。

ストーリーだけを書くと、非常にシンプルなラブストーリーであるが、映像のそこかしこにベルトルッチならではの構図や、カメラ演出が散らばっているために、只のラブストーリー以上にどんどん作品の中にのめりこんでいくのです。その一つ一つをここで書きつくせないほど多彩な演出は、才気あふれる若きころのぎらぎらするような演出が瑞々しい。

後のベルトルッチの魅力のエッセンスがつまった傑作で、寸分のすきもないくらいにさまざまな映像に酔いしれることができます。スクリーンで見てこそその進化が味わえる、本当に初期の代表作という言葉がぴったりの映画でした、