くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「戦火の馬」「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」

戦火の馬

「戦火の馬」
世の中の汚れをすべて取り除いて、「善」というもので満たされた美しい世界という前提を徹底して貫いたリチャード・カーティスとリー・ホールの見事な脚本とその物語をファンタジックかつ目を見張る映像でバックアップしたヤヌス・カミンスキーのすばらしいカメラ、そして超一流の才能で描き出すスピルバーグ監督の演出手腕が結実した見事な秀作でした。悪くいえばお子さま向けの甘ったるい映画ということになるのかもしれませんが、作品の完成度の高さを論じれば一級品であることに間違いはない。そこを素直に感動すべき名作でした。

この映画の主人公はジョーイとな名づけられた馬である。従って人間の描写は徹底的に簡略化されているのがわかる。中心になる青年アルバートも冒頭でジョーイが生まれるシーンを目撃し、その馬を父が張り合って落札して、意地で育て上げるシーンはあるけれども、その馬と交流する心のドラマはほんのわずか描かれているに過ぎない。唯一の伏線として独特の口笛で呼ぶと答えるようになるというシーンだけにとどめる。そして、すぐに軍馬として父が売却してしまい、この馬の波乱の物語が幕を開けるのです。

イギリスの将校ニコルズ大尉の手に入ったジョーイはそこで黒い馬と仲が良くなる。しかしドイツ軍との戦いで奇襲したはずが逆に返り討ちに合い将校が戦死、こんどはドイツ軍に引き取られるがそこで優しい兄弟の世話になることになる。しかし、前線へ送られる弟のために兄が馬とともに脱走する。、風車小屋に馬を隠していたが、自分tナチが見つかり、この兄弟は脱走の罪で銃殺される。見つからなかった馬はその風車の持ち主の老人と孫娘の手になる。

しばらく孫娘と仲が良くなったジョーイたちだが、そこでもドイツ軍に見つかってしまい大砲を引く労務作業の馬として徴用される。やがて酷使された黒い馬は死んでしまう。いよいよドイツ軍が苦境になる中、うまく脱走したジョーイは有刺鉄線の中を走り抜ける。このクライマックスのスピード感あふれる映像は全くスピルバーグの才能の真骨頂だろう。塹壕の中を縦横に走り抜けては飛び出して引き返す、さrない見えてくる有刺鉄線を突き抜けていくが張り巡らされた鉄線の末に身動き取れなくなりドイツとイギリスの中立地帯で倒れてしまう。

そして、その有刺鉄線に絡んだジョーイをイギリスとドイツの兵隊が仲良く助け、そのままジョーイはイギリス軍のもとへ。なんと底には兵隊になっているアルバートがいたのです。彼はドイツ軍との戦闘の中で毒ガスで目をやられている。この戦闘シーンの迫力もさすがにスピルバーグならではの見事なスペクタクルが見られる。このあたりになるとまったく職人芸の世界ですね。

足を汚しているジョーイは殺される寸前、アルバートと再会、独特の口笛で答えるジョーイとの感動のシーン、雪がはらはらとファンタジックな映像を生み出していく様は絶品。

そして終戦、戦場の馬はすべて競売にかけられるというところでかつての老人が落札するくだりがなんとも念の入ったストーリー展開である。しかし老人はアルバートの事情を知り彼に馬を引き渡す。アルバートは馬を連れて故郷へ帰ってきてハッピーエンド。真っ赤な夕日をシルエットにたつアルバートたちのシーンで締めくくられる。

このラストシーン、かつてカラーフィルムが黎明期であったころ、その性質ゆえに真っ赤な夕焼けになってしまうという効果があった。「風と共に去りぬ」のラストを髣髴とさせる真っ赤な夕日のシーンがこの作品で再現されている。まさにスピルバーグのお遊びであろう。ほかにもスピルバーグのお遊びがある。ニコライ大尉がドイツ軍に突撃するシーンでジョーイが森の木々を走りぬけるシーンは朝望遠レンズによって馬を追いかけたためにものすごいスピード感が出ている。この演出は黒澤明が好んで使った撮影方法で、黒澤明の信奉者でもあるスピルバーグならではのシーンだ。さらに、風車小屋の老人たちのところに食料調達に着たドイツ軍の隊長が老人に言うせりふ「また収穫のときにやってくる・・」というのは「七人の侍」の野武士のせりふである。軍人が毎年毎年同じところにやってくるなんて考えられないから明らかなお遊びシーンですね。

戦場のシーンもさることながら、田園風景を捉える美しい緑のシーンも実に美しい。全体がまるで文部科学省ご推薦というほど完璧な美しさで描かれる様はまったく息を呑んで見入ってしまう。しかし、いまやスティーブン・スピルバーグといえば監督名でお客さんを呼べる数少ない名監督である。そのために期待するレベルがさらに上であるというのがなんとももったいないです。しかし、私個人としてはこういうほのぼのした映画がアカデミー賞を受賞するような世界がもう一度きてほしいと思うしだいなのです。


シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」
前作は映画ファンの間ではかなり不評だったにもかかわらず、私はそのスピーディなアクション演出とCGを使った個性的ハイテンポな映像で大絶賛しましたが、今回は残念ながらテクニックにおぼれてしまったという感じで、ちょっとメリハリにかける上に芯になる物語が際立ってこずに散漫なできばえになってしまいました。

映画が始まってから次々とあのCGアクションとホームズが推理する場面で使われるフラッシュバックの演出が何度も何度も登場する。それがかえって中心になっている物語の流れがせき止める結果になってしまってストーリーさえもばらばらの細切れになってしまった。宿敵モリアーティ教授の陰謀に立ち向かうシャーロック・ホームズという構図が揺らいでしまったためにラストシーンで二人が滝つぼに落ちるという原作でも有名なシーンのインパクトがいまひとつになってしまったうえに、そのあとのエピローグさえ本当のついでになってしまいました。

もちろん、コナン・ドイルが作り出したキャラクターを使ったアクション映画であって原作のエピソードも取り入れられているとはいえ別物の映画である。したがって、ホームズファンにとっては物足りないと思える人もいる。ではあるけれども、やはり謎解きの面白さ、ホームズの天才的な頭脳とヒーロー像というものはやはり期待してしまうのですが、今回はそれも希薄な上に宿敵である天才学者モリアーティ教授のカリスマ性がまったく見えてこないのが最大の欠点です。

面白いアクション映画というのは悪役の存在感が一番重要なのですが、それがうまくないので本当に面白みに欠ける映画になってしまった。

ホームズの格闘する際に先を読むという天才的な頭脳のシーンも前作ですでに何度も見ているし斬新さがない。その上、推理ドラマの面白さもいまひとつとなればちょっといただけない結果になりました。
モリアーティ教授の目的が世界大戦であるという設定はたしかに原作を踏襲するなら壮大な陰謀なのですが、すでに歴史の事実として世界大戦が2度も起こっているのですから迫力に欠けるのが事実。そのあたりはやはりホームズの頭脳明晰な演出で見せるべきだったでしょう。

単順に娯楽映画として楽しめればそれでいいのですから、まぁこれ以上は書かないことにします。でも期待作なのに残念でした。