くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「じんじん」「遠くでずっとそばにいる」

じんじん

「じんじん」
俳優の大地康夫が北海道の剣淵市で出会った絵本の里運動の物語を題材に描いた感動のドラマである。いわゆる地方振興ドラマの一本だが、先日の「渾身」のように、優れた作品も時にあるので、期待はないとはいえ、ちょうど時間がはまったので見に行った。

ファーストショットがいい。粉雪が舞う山奥の小屋、いろりの光に照らされて三人の子供と一人の老婆が座っている。老婆は子供たちに「やまんば」の恐ろしい話をしているのだが、この語りが抜群にすばらしい。このシーンだけでも見た甲斐があると呼べるほどなのだが、この後はじつに凡々とした作品になる。

この手の映画にあら探しをしてはいけないが、あらが目立ちすぎる。何の芸もない脚本をただ間延びさせるだけでつないでいく。非常に無理、無駄のあるシーンが多すぎて、切れが悪い。

物語は大道芸人の銀三郎が北海道の友人の農場を手伝いに行くことになる。そこにやってくる農業研修の四人の女子高生。銀三郎には別れた妻との間に娘がいて、別れてからあったことがない。その子供が実は四人の中にいるという展開からが物語の本編。

例によって絵本コンクールがクライマックスになるが、今の生活を乱してはいけないと身を引く銀三郎の行動がいわゆるおきまりのラストとなる。

ただ、松島での銀三郎の物語が中途半端で必要性が見えないし、ストーリーに人間の心がしっかりと描けていないために、感情に訴えてこない。結果、130分という長尺はただのだらだらになったのが残念。

でも監督の山田大樹という人、時折驚くほどの美しいカットを映し出す。ファーストショットはその一部だが、途中でもこだわった構図が見え隠れするのである。しかし、いかんせんストーリーテリングが弱いために、だれてしまったか。主演の大地康夫もかつてのカリスマ性が見えないし、ほかの俳優もちょっと物足りない。しかし、なんと山谷初男がまだ健在ぶりをみせる。行方不明になる老人役だが、一目でわかった。これもまた見た甲斐があったといえるかもしれない。そんな映画でした。


「遠くでずっとそばにいる」
ゆっくりした流れでゆったりと展開する、甘酸っぱくも切ないラブストーリー、まさに音楽を担当した岩井俊二の世界ともいえるが、監督は長澤雅彦である。

蓮の花をゆっくりとカメラが追いかけていく。傘を持った少女、その傘が落ちて、カメラは病院のベッドに横たわる主人公志村朔美の姿。左手首あたりは骨折したのか包帯されている。頭にも包帯。ゆっくりと立ち上がり病室の外にでて、喫煙室にはいると一人の男谷口がたばこを吸っている。彼との会話で時間がかなりたったことがわかる。

主人公の朔美は交通事故でなぜか10年分の記憶をなくし、17歳の頃に記憶が戻っている。そこへ、友人の大島が現れる。彼女は性同一性障害で男装をしている。もう一人、彼氏だという細見も現れ、朔美の母に頼まれ、交代で朔美の記憶をたどることに。母は再婚し、朔美にとって妹で耳の不自由な美加も現れる。

ここから前半部分が実に明るいタッチで展開していていい。朔美がまるで記憶喪失を楽しむように、細見や大島と接し、冗談を交わしながらの物語がとっても軽やかなのです。主演を演じた倉科カナの演技もなかなかで、心は17歳で体は27歳という微妙な戸惑いも軽くいなすあたりがとってもいい。

やがて見えてくる、彼女の職場、なぜか「死ねばいいのに」と現れる女竹内。なぜ10年?次々と現れる人々はなに?などなどがサスペンスになるのだが、長回しを多用したワンシーンワンカット、やスローモーションのカメラがゆったりとした時の流れを描いていく。

そして、一年に二度の交通事故という事実を知るにつけて物語は一気にクライマックスへ。

朔美は片思いの手島という男性が高校時代からいたが、それに気がついたときはすでに細見の彼女だった。そして、手島と車に乗っているときに谷口に追突され、手島だけ死んだ。悲嘆した朔美はリストカットを繰り返した末に車に飛び込んで自殺未遂をした。それが二度目の事故であるとわかる。

二度目の事故の時、カメラはボートに乗って歌の練習をしていた美加の視線から、つまり冒頭と逆の視点から朔美をとらえる。傘が舞い、車が迫る。

一方、最初の事故の賠償金を借りた大島は、気まずい思いでいったんは朔美を去るが、終盤にもう一度再会。

家にあった半分の絵は朔美が手島と書いたもので、半分は手島の彼女である竹内が所有している。一度は取り戻すも再度竹内に返し、一人浜辺でキャンプする朔美のところへ細見がやってくる。なにげなくすべてがわかった上での仲直り。そして、キャンプの翌朝大島ともう一度会う。

結局記憶は戻らない。しかし、周りの登場人物それぞれが誰もが善人で屈託なく朔美と接する。そして、さりげなく元の生活へと導いていくように見えるのである。

記憶が戻らないとはいえ、何かすべてが見えたように思う朔美のショットでエンディング。暗転。

流れが緩やかで、最後までそのトーンが変わらないし、前半の軽快なタッチが後半につれて、それほど乱れるわけもなく終盤の真相へと流れていく。そして、さらっと終わるラストが何とも切ない。

評判の良い声も聞こえてこないし、ヒットもしてないみたいですが、私は良かった。倉科カナも大島を演じた伽奈もいい味を出していたと思います。私は好きですねこの映画。