くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「特急にっぽん」「風船」「負ケラレマセン勝ツマデハ」

特急にっぽん

「特急にっぽん」
東京から大阪まで走る特急こだまの車内を舞台にして展開するどたばた喜劇。物語の中心は食堂車のコック喜一とウェイトレスサヨ子のラブストーリーであるが、群像劇のように、スリの男たち、いかがわしい女、ガムの会社の女好きの社長、見合い相手を捜す母親とマザコンの息子、ミスこだまというあだなの客室乗務員などが織りなす、笑いの洪水の世界である。

狭い車内で当時の運行時間である東京から大阪までの6時間半を有効に利用した物語が実に巧妙で、横に長い画面を有効に利用した構図の演出のおもしろさも目を引く。

さらに、クライマックス、窓の外からのカメラで右に左にパンさせ、車内で繰り広げられるサイレント映画のようなドタバタを見せる演出が川島雄三の遊びといえば遊びの世界である。

作品の出来映えは、他の川島雄三作品ほどの軽快なリズムがみられなく、ひたすら淡々と展開するテンポがやや物足りないものの、たわいのないドラマを、セットやミニチュアを利用した、アメリカン喜劇のような画面のおもしろさを交えて遊んでいく川島雄三の遊び心は本当に楽しい。

こんな映画もつくれるんだとある意味必見の一本だったかもしれませんね。


「風船」
軽快なテンポで描くコミカルな世界が川島雄三の作品には多いが、一方で「わが町」のようなシリアスドラマの傑作も作り出している。今回の作品はそのシリアスな部分の川島雄三の世界である。

人生の選択を風船に見立てたストーリー展開は理解できるのですが、登場人物の整理が完全にできていないために、前半、中盤、後半とその視点がまちまちになってしまったのが非常に残念。結局ラストシーンに至る物語がそれまでの物語がなくても成立する大団円になっている。

とはいえ、その画面づくりの見事さ、動きのある演出のうまさは職人芸であると思う。
特に、路地のシーンでゆっくりと主演の人物を捕らえてパンして動くカメラの中に、鞠で遊ぶ子供たちが入ってくるショットなどは絶品。

物語は、主人公村上春木の恩師で画家の葬儀のシーンに始まる。今やカメラ会社の社長として成功した村上春樹、そこで、恩師の息子の都築正隆に会う。彼は画家ではなくナイトクラブを経営している。

春木はかつて画家を目指していたが、金のために絵を描くのがいやで会社を興し成功したのである。息子の圭吉が部長としてつとめているが彼には愛人の久美子がいる。

都築は自分の店の歌手で、自分の愛人でもあった女ミキ子に圭吉をものにしろとけしかけて、ミキ子は圭吉に近づく。そして、まんまと圭吉と懇ろになるのである。

春樹には幼い頃に小児麻痺になった不遇の娘珠子がいる。春樹はこの珠子がかわいくて仕方ないようである。珠子は久美子の人柄に引かれ、慕うが、圭吉に去られた久美子は睡眠薬自殺をする。一端は回復するが再びガス自殺をして死んでしまう。

一方春樹は若い頃京都の下宿で絵を描いていた。その下宿に行く機会があり、そこで、当時世話になった人の娘るい子に会い、また絵心が頭をもたげてくる。そして、かつて借りていた二階をもう一度借りることを決心する。
久美子の死で、圭吉を成長させるために、春樹は圭吉に家を譲り会社も辞めて京都へ行くことにする。妻はついてこなかったが、娘がついてくると思ったが、ついてこず、一人で京都へ行く。

ある日、下宿のるい子につれられ盆踊りにいくと、後を追ってきた娘に出会ってエンディング。

と、それぞれの人物の人生の選択を圭吉、久美子、ミキ子を中心に、その周辺の都築、春樹、珠子を交えて描いて行くが、途中までの展開から一気に春樹と珠子の関係に終盤変わってしまう。もちろん、途中の展開で珠子が絡んでいるのだが、人生を風船になぞらえた意味がどうもうまくまとまっていっていないように思うのです。

春樹の妻で非常にまともな考え方の人物も終盤までその存在感が表に出てこないのはちょっともったいない。

ちょっと人物描写、ドラマ描写にテンポがみられなかったのが残念な一本ですが、人生の機微をさりげなく映し出す川島雄三の演出はそれなりに見事なものがあると思います。


「負ケラレマセン勝ツマデハ」
豊田史郎監督が描くオールスターキャストで描きどたばたコメディ。
下町の中小企業の経営者たちが税務署の取り立てにたてつきながらも、笑いと人情でたくましくいきる姿を描いていく。

信号のない交差点にトラックがつっこんできて鶏が散乱するシーンから映画が始まる。再三信号をつけてくれという要望にも関わらずなかなか行政は動かない。

そんな町の、その日暮らしのような人々のところに税務署の取り立て人がやってくる。口八丁手八丁で抵抗する町の人々のおもしろくもおかしい毎日が何ともほほえましい。
森重久彌扮する自動車工場の久吉、乙羽信子淡島千景伴淳三郎など芸達者が小林桂樹粉する税務署員松井と取り留めのない攻防戦。しかし、近年の税金映画と違って、難しい法律などでてくるはずもなく、税金の言葉を聞くとしゃっくりがでる久吉を中心にばたばたとストーリーが展開。

久吉の娘絹子がローラースケートを履いて走り回るというのがなんともモダンです。

寿司屋を経営する淡島千景扮するお仙がやがて松井と恋仲になって、交差点に信号がついてエンディング。

取り留めのないお話の連続は、間延びというより、しつこいくらいだが、まさに映画が娯楽だった時代の典型的なストーリー展開とバイタリティに、ほほえましいより迫力に引き込まれるものがあります。

芸映画で豊田史郎のファンでもありますが、この手のコメディでもやはり当時の監督は職人技を見えてくれるところがさすがですね。楽しい一本でした。