物語は、ポーランド労働組合「連帯」の初代委員長レフ・ワレサの半生を描いている。当然、ポーランド社会主義政権の時代の政府による抑圧、圧制に苦しむ人々の姿を背景にしているので、相当な社会派ドラマである。
しかしながら、90歳を迎えたアンジェイ・ワイダの映像感性はさすがに見事なもので、重いテーマを重いままに描ききるということはしない。背後にテンポのいいモダンなリズムの音楽を頻繁に挿入し、ともすると、暗い内容に陥りがちなワレサの物語に、しっかりとした娯楽性を生み出すのだから大したものだと思う。
イタリアから著名なジャーナリストが、ワレサの家にやってきてインタビューをするシーンに始まる。そして、ワレサが1970年に起こった食糧暴動の出来事から語り始める。
しかし、その語る物語には、もちろんワレサが、次第に労働者に持ち上げられ、その抜群のリーダーシップとカリスマ性でリーダーとなっていく様を英雄談のごとく描いていくわけではなく、頻繁に妻ダヌタや子供たちのカットを挿入し、釈放されては次のカットでは拘束されているというようなハイテンポな映像編集で、小気味良くストーリーを描いていく。
従って、描くテーマが、労働者とそれに圧制する政府の理不尽な圧力という、嫌気がさすような展開を、さりげなく漂わせる効果を生むのだ。
次第にワレサの存在がポーランドの中で大きくなり、さらには、ノーベル平和賞の受賞に至るも、政府のワレサへの視点はゆるむことがない。それでも、時代はワレサを指示していく様はクライマックスの圧巻である。
モノクロームの映像がカラーにオーバーラップし、時にテレビ画面のようなサイズ、ドキュメントフィルムの形を用いたリアリティへのこだわりも、さすがにワイダの力量を感じる。
作品の出来映えは、本当にしっかりしたものであり、労働組合の指導者としてのワレサの人物像を、一人の人間として描いた点では見事なものであったと思います。