くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「滝の白糸」「痴人の愛」「あにいもうと」

kurawan2014-08-13

「滝の白糸」(野淵昶監督版)
解説の通り、宮川一夫のカメラが抜群に美しい。いや、それもだが、アングルも、美術セットも群を抜いた一級品である。

物語は、いまさらでもない泉鏡花原作の有名なお話である。

冒頭、旅芸人の滝の白糸一座が、金沢の興業場へやってくる。馬車でいくか、人力車で行くかという掛け合いの後、馬車と人力車の競争という、大移動撮影から幕を開けるこの映画は、このあと、じめっとした恋物語ながら、このオープニングがかなりスペクタクルである。

この馬車の操舵人村越と、一座の座長滝の白糸が親しくなり、法律家を目指す村越に、白糸が金を送り、大学に行かせる下りが、本編になる。

いわゆる苦労話であるが、そこに、白糸をねらう興業師の男が絡み、やがて、悲劇の結末へ。

といったかと思うと、無理矢理のようなハッピーエンド。

ストーリーの展開よりも、泉鏡花の原作のうまさをかいま見る一本で、それを名優たちが競演するという形の作品。

それでも、スタンダードながら、フルショットを多用した画面づくりに、美しいセット、カメラアングルの妙味、それぞれが見応え十分であった。


痴人の愛」(木村恵吾監督版)
ご存じ、谷崎潤一郎の原作の映画版であるが、さすがにしつこいほどにくどい演出がかなりしんどい一本。

確かに京マチ子を売り出すための一本と言うことで、やたらその妖艶な姿をスクリーンに披露してくれるが、ストーリー展開がリズムが悪く、執拗なまでにナオミに尽くす譲治の姿を描く前半部分から、後半に移り、とうとう追い出されるクライマックスまで、妙に二人のバランスが悪い。

そのために、ナオミへの嫌悪感ばかりが目立ってしまい、物語のそれぞれのエピソードも抑揚が少ないために、息苦しくなってくる。

結局、スターを持ち上げるだけの映画に終始してしまったのが残念。


あにいもうと」(成瀬巳喜男監督版)
成瀬巳喜男監督全盛期の一本。

全く、いつも思うのだが、成瀬監督の作品は、こんなたわいもないドラマをここまで、引き込み、迫らせるというのはいったいどういう才能なのかと毎回驚いてしまいます。

この作品もそうです。

河原で石を集めている職人。いかにも頑固な雰囲気の男赤座が歩く、歩く、歩く。

久我美子扮する、妹のさんがバスで帰ってくるシーンから始まる。近所のおばさんや、人たちの視線や言葉がなにかにつけ、意味ありげで、いったいどうなったのかというサスペンスのような導入部。

戻ってみれば、男に妊娠させられ捨てられた姉もんが帰っている。近所の人々の視線の意味が分かるのだが、ここに、このふしだらなもんという妹をやたらかわいがる兄いのがいる。しかし、家族の前では、悪態をつくばかり。父親の赤座からも疎まれている。

しかし、もんが帰った後訪ねてきたもんの相手である小畑の後を付けて殴りかかり、自分がいかにもんがいとおしいのか切々と語るのだ。

このシーンが、ラストで、すっかりすれっからしになって帰ってきたもんに平手打ちを食らわし、罵倒するのだ。しかし、これが愛情のなせる仕業だと中盤で演出してあるのだからすごい。

そして、もんとさんが再び東京へ帰っていく後ろ姿を写して映画は終わるが、そこに、なんともいえない、親心、さらには兄の愛がにじみでてくるのである。

傑作とはこういうものを言うのだろう。全くすばらしいの一言につきる。