くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「女経」「イン・ザ・ヒーロー」

kurawan2014-09-12

「女経」
増村保造市川崑吉村公三郎の三人の監督が競作したオムニバスである。さすがに、これだけそろうと、それぞれ三種三様の個性的なオムニバスになる。

増村保造監督作品が第一話の「耳を噛みたがる女」。
キャバレーで働く主人公は、客を手玉にとってうそをつきながら金をためている。しかし、実は一人の男性に恋を抱いているのだが、彼に本音でプロポーズをした翌朝、訪ねてきた男に、実は嘘だったという。その男のフィアンセに、かつて自分が味わった結婚直前のドタキャンの悲しみを味わわせたくなかったという切ない女心を描く。

さすがに、しゃあしゃあとうそをつきながら金をせしめる主人公の姿は増村の世界である。

第二話の「物を高く売りつける女」は市川崑の作品。
浜辺で倒れている男のシーン、妙な語り口でたたずむ女のシーンに始まるどこかシュールでファンタジックなオープニングに、市川監督の個性がでてくる。

まるで物の怪のような様相で男に迫る女、実は、たくみに物を売りつけてはその手数料をせしめる名うての商売女。すっかりだまされたかの男だが、自分の家で、アイロンをかけながら、次の段取りをする女のところに、最初の男がやってきて、二人は恋を成就させる。さすがに山本冨士子に「飛びきりに美人の私でないとこの商売は云々」というせりふをはかせるシーンは笑ってしまいました。

第三話「恋を忘れていた女」は吉村公三郎監督作品。
京都を舞台に、かつては売れっ子芸者だった主人公、今は宿屋の女主人だが、そこに止まっていた中学生の団体の一人の少年が事故に遭う。

今まで、商売だけ、金だけと誰彼かまわず遠ざけていたが、かつて愛した男が、警察に捕まり、事故にあった少年にも血を輸血してやり、忘れていた女心を思い出す。

ラストシーン、五条の大橋にたたずむ女のカットを横長の構図でとらえた映像が実に美しく、この美的映像の世界はまさに吉村公三郎ならではの演出である。

どれをとっても、エンディングの後に、しんみりと胸に残る何かがあり、作品それぞれの完成度もなかなかの物で、堪能できるオムニバス映画でした。


「イン・ザ・ヒーロー」
おもしろい題材なのだが、今一つ切れのない演出と、せっかくのクライマックスが全くスピード感のないアクションシーン、さらにそれぞれの登場人物の人物背景の描写が希薄なために、薄っぺらい作品に仕上がってしまった。本当にもったいない一本。若干の期待もあったので、ちょっと不完全燃焼だった。

物語はスーツアクターとして、ヒーロー物のアクションをこなす本城が主人公。彼が率いる仲間たちは、スーツアクターに生き甲斐を求め、プロ意識を持つ家族同様の存在。そこに、一人のいけ好かないイケメン男優一ノ瀬リョウがやってきたことで、波風が立ち始め、一方で、日本でアクション映画を撮ろうとやってくるハリウッドの監督が絡んでのお話になる。

一ノ瀬に幼い妹と弟がいる、というお涙ちょうだい設定に、本城の首が長年のアクションで痛めつけられているという前提、撮影現場のスタッフたちのプロ意識など、てんこ盛りの台本なのだが、それぞれが描ききれずにクライマックスになだれ込むから、何とも陳腐に見えてしまう。

せめて、クライマックスの殺陣シーンが迫力満点ならいざ知らず、どう見ても、どうってことないから、本城が命がけで望んだ感がほとんど見えない。それをスローモーションでごまかした演出はさらにいただけない。

台本の弱さ、演出の弱さが、せっかくの題材を凡作にしてしまったという結果だった。箸にも棒にもとまではいわないが、普通の映画だった。