「さよなら歌舞伎町」
とっても悲しくて切ないお話だけれど、ひたむきさが切々と伝わってきて、胸に迫ってきました。良かった。監督は廣木隆一です。
導入部、ひたすら手持ちカメラで人物を追いかけていく映像に、妙に違和感を感じていましたが、物語が本筋に入っていくと、どんどんのめり込んでしまった。
前田敦子と染谷将太の映画にように宣伝されているが、この二人のエピソードは、ほんの一部で、主人公は染谷将太扮する徹である。
映画は、前田敦子扮する沙耶と徹の部屋から始まる。徹は周りには一流ホテルに勤めているといっているが、実はラブホテルの店長である。
そんな徹のつとめるホテルにやってくる人々の悲哀を描いた群像劇だが、それぞれに味があって、とってもいいラストシーンを迎える。
日本でデリヘル嬢をしているイ・ヘナは、お金が貯まったので、韓国へ戻る予定をしている。彼女にはチョンスという恋人がいて、離ればなれになることを覚悟している。デリヘル嬢をしていることはチョンスにも黙っているが、ふとしたことからチョンスは知ってしまう。
徹と一緒に働く中年女性の里美、15年前に強盗をした男康夫と暮らしている。まもなく時効だが、たまたまホテルに不倫できた二人の刑事に見つかってしまう。
少女をたらし込んでデリヘル嬢に売り飛ばす仕事をしている正也は、連れ込んだ女性に惚れてしまう。
ホテルにAVの撮影がきたが、その女優が徹の妹で。
と、次々と、どこかありそうでもの悲しい話が次々展開していく。しかも、それぞれが、なんとなく、ハッピーエンドでラストを迎えて、一夜があける。その、観客の心をつかんだ展開がとってもさわやかなのである。
ネットの評判は良くない作品だが、私は、それぞれのエピソードの組立のうまさに感心してしまいました。
チョンスが、客になって、イ・ヘナの最後の仕事の夜にホテルに行き、お風呂に入るシーンが何とも切ないし、その後、ホテルを出て、結婚を申し込む下りも最高。
時効寸前で、女刑事に捕まりかけるが、騒ぎに乗じて逃げた里美が、自転車で康夫を乗せて疾走するシーンもいい。
ホテルの前で、いつも立ちんぼをしている年増の売春婦。徹が追い返した後、隣のホテルで客に殺されてしまう。
終盤、とうとう、切れてしまった徹が、火災報知器のボタンを押し、騒ぎを起こして、ホテルを辞めて高速バスに乗り、ふるさとへ向かう。少し後ろに妹も乗っているエンディングも切ない。
どのエピソードにも味があって、決して退屈しないし、胸に迫る物がある。ラブホテルのサイケデリックな色彩が、人々の哀愁を誘うようで、いい効果を醸し出していると思う。いい映画でした。
最後に、枕営業をしようと、徹のホテルにきてしまった沙耶のエピソードが、今一つ弱いのが残念だった。
「大悪党」
増村保造監督お得意の、どん底からはいあがる女の物語。見応えといい、娯楽性といい、情念の世界を満喫できた。おもしろかった。
映画はボーリング場、主人公の女芳子が恋人と別れるところから始まる。それをじっと見つめるやくざの安井。
物語はこの芳子が安井にレイプされ、写真で脅されて、どんどん奈落に落ちていくが、これまた悪徳弁護士得田の入れ知恵で安井を絞め殺し、まんまと法廷で無罪を勝ち取る。しかし、今度は、得田が手にした金を得田を脅して、自分の物にする。
痛快ハードボイルドという感じの一本で、ねちっこいほどに、隙間からとらえるカメラアングルや、どんどん墜ちていく芳子の姿をなめるように追っていく演出のすごみに、酔いしれてしまう。
しかも、得田をも手玉にとってしまうラストに、ある意味、爽快感さえ感じるのだから、増村保造監督の演出手腕には恐れ入ってしまうのだ。
現代では、ややリアリティに欠けるシーンもないわけではないが、映像表現としての完成度は大したものだと思います。おもしろかった。