くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「赤い影」「銀河」「アンチバルト・デラクルスの犯罪的人生」「20世紀ノスタルジア」

「赤い影」

初公開以来のスクリーン鑑賞。やはり面白かった。赤い物をあちこちに散りばめて、小さな伏線を配置した不気味な映像展開はわざとらしいながらも、それを映画として楽しむ作品に仕上がっています。監督はニコラス・ローグ

 

沼地に降る雨の水、赤いレインコートを着た少女、自転車に乗る少年、部屋の中でくつろぐジョンとローラ夫妻。ジョンが持っている教会の写真に赤いコートの後ろ姿の少女、その後ろ姿が、コーヒーをこぼしたために滲んで赤く染まって行く。ふと何かの予感がしてジョンは外に飛び出す。少年がかけてくる。ジョンが沼に駆けつけると沈んでいる娘クリスティンを見つけて号泣。そして物語はベニスの教会の修復の仕事でやってきたバクスター夫妻の場面となる。

 

カフェでお茶を飲んでいた夫妻は、目の不自由な妹がいる姉妹と知り合う。目の不自由な妹ヘザーは、クロスティンが、夫妻のそばにいると告げる。そしてクリスティンは夫妻がベニスを出るように危険を知らせているという。ベニスの街では連続殺人事件が起こっていた。ローラはすっかりヘザーに引き込まれ、しまいには降霊会にまで出ていく。そんな時、イギリスにいる息子が怪我をしたという知らせが入る。ローラは一人イギリスに向かうが、ジョンは、姉妹とローラが喪服を着て一緒に船に乗っている姿を目撃する。

 

ジョンは、姉妹を探すが、姉妹は怪しい人物がホテルにいるらしいと聞いて別のホテルに移っていた。ジョンは必死で姉妹を探し警察沙汰にまでしてしまうが、そんな時、イギリスのローラから電話が入る。ジョンは警察に止められている目の不自由な妹を解放してやってホテルに送ってやるが、ローラが帰ってくるので約束の場所に行くために帰ろうとすると、ヘザーが叫び始める。ジョンは先を急ぐと出ていくのだが、ジョンに危険が迫っているから呼び戻せと姉にいう。姉が慌てて後を追うが間に合わず、駆けつけたローラがジョンを探しに夜のベニスをかけていく。

 

その頃、ジョンは赤いレインコートを着た小柄な人物を見つけ後を追っていた。そして、やっと追いついたかと思いきやその人物が振り返ると、殺人鬼で、ジョンは首を斬られ死んでしまう。ローラと姉妹は喪服を纏い船に乗ってジョンの葬儀を執り行っている。こうして映画は終わっていく。

 

さすがに面白い。至る所に散りばめられた細かいカットの数々と、不穏な展開に引き込まれる映画でした。

 

「銀河」

キリスト教の教義や奇蹟をアイロニーと風刺を込めて描いて行く、なんとも面白い作品でした。空間も時間もそっちのけに自由奔放に映像を綴って行く演出が秀逸で、何度も見たくなる魅力があります。これが映画の魔力でしょうね。監督はルイス・ブニュエル

 

二人の男が教会まで巡礼に歩いている姿から映画は幕を開ける。突然、身なりのいい男が現れ、向こうに着いたら娼婦を買い子供を作れという。そしてその子供につける名前を指示して去っていくが、後ろ姿を見ると、もう一人横に並んでいる。二人の男は行く先々でさまざまな出来事に遭遇するも、それは全てあっさりと流れていく。それが奇跡であり、どこかで聞いたキリストの逸話であったりする。そして到着した所で、一人の娼婦に呼び止められ、三人で何処かへ消えて映画は終わる。

 

部屋の外にいた人物が部屋の中に入ったかと思うと、外にいたり、いかにも聖人と思われる人が現れたり、マリアが現れキリストに髭は残した方が良いとアドバイスしたり、終盤で盲目の男を治したり、人間と神の境目を取っ払って自由奔放に展開する様がとにかく面白くて仕方ない。盗みをして警官に止められ、罪に問われるかと思えば、あっさりと見逃してもらったり、どのシーン、どの場面でもニヤリとするほどのアイロニーの塊である。映像を楽しむことがこんなに面白いかと思える映画でした。

 

「アンチバルト・デラクルスの犯罪的人生」

風刺の効いた面白い映画なのですが、ちょっと間伸び感があるのと、人物の関係が見えにくくて、若干キレのない作品に思えました。監督はルイス・ブニュエル

 

両親が芝居を見に行くということで、留守番をさせられる一人の少年が、母にオルゴールをねだっている。主人公アルチバルトの少年時代である。世話をする女性にオルゴールにまつわる話を聞いて、オルゴールが鳴ると人が死ぬのなら試してみようとしたら、外を見ていた女性は、外で起こっている銃撃戦の流れ弾で死んでしまう。

 

大人になったアンチバルトは病院で看護婦に世話をしてもらっているが、その看護婦を殺そうとナイフを向けたら、看護婦は逃げてしまい、エレベーターから落ちて死んでしまう。アンチバルトは、殺したいと願って自ら実行しようとしたら必ず他に先取りされて手を下せない。そんな彼は、警察に行き、これまでの自分の犯罪を白状するが、手を下していないのだから犯罪ではないと追い返される。アンチバルトはオルゴールにそんな力はないと確信して沼に捨ててしまう。すると、かねて恋をしたもののフラれたラザニアと再会、二人で歩いて行って映画は終わる。

 

なんとも不思議な空気感が漂うのはわかるのですが、ちょっと間伸び感がちらほらあって、物語が見えづらいのが残念。でも

ブニュエルらしいアイロニー満載の作品でした。

 

20世紀ノスタルジア

こういう元気のいい映画はいいですね。たわいないラブストーリーなのですが、ラブストーリーを全面に出さずに、あくまで青春時代の一ページのさりげない男女のさりげない瞬間をホームムービーのようなカメラワークでみずみずしく切り取っただけの作品。そのシンプルさが素敵な作品でした。監督は原将人

 

主人公遠山杏のクラスに流れている昼休みの映像が途中から音声が混線してしまう。その音声は、かつて杏と片岡徹が撮ったビデオ映画の音声だった。慌てて放送室に駆け込む杏。こうして映画は始まる。杏と徹はビデオでお互いをとりながら映画を作っていた。それは、徹と杏の体に寄生した宇宙人が、やがてくる地球滅亡までの時間を過ごす物語だった。しかし、最後まで撮って、編集をせずに徹はオーストラリアへ行ってしまったのだ。

 

杏は、友人の勧めもあり膨大なビデオテープを編集して映画を完成させることにする。編集していくうちに見えてくる杏と徹の物語はいつのまにか、淡い恋物語の匂いが漂ってきていた。それに気がつきながらも、避けるように映画を編集していく杏。そして最後まで編集し終わった映画は、どこか無理矢理終わらせたようにしか見えないものだった。

 

杏は、本当の気持ちを封印するかのように映画を本当に完成させることを拒むのだが、ふとしたことから、かつて徹が自宅に来ての帰り道の映像が、自分が編集したものと違うことに気がつく。そして、その映像を探し出して再生してみると、徹の杏への想いが語られていることに気がつく。

 

杏は、映像を撮りたし、再度映画を完成させる。そしてそれをオーストラリアの徹に送る。しばらくして、いつも通り撮影して帰ってきた杏を待っていたのは徹だった。こうして映画は終わる。

 

思い悩み、行き場を模索しながらとうとうオーストラリアへ行ってしまう徹の本当の気持ちが、さりげなく映像の中から見え隠れして、それを映画に仕上げた杏の気持ちでようやく素直になれた徹が帰ってくるラストがとっても瑞々しい。本当に若々しい作品でした。