くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「罪の余白」「岸辺の旅」

kurawan2015-10-08

「罪の余白」
とことん陰気な映画である。おそらく原作の空気がこの感じなのだろう。そのまんま、小説の物語を踏襲していくだけの映画でした。監督は大塚祐吉。

物語は、一人の女子高生がベランダから落ちて死んでしまう。どうやら、友達の咲に心理的ないじめを受けていた結果によるものらしい。死んだ少女は加奈。父は大学で心理学を教えている。咲には真帆という友達もいる。

冒頭、高校の教室で、咲からの無言のプレッシャーを受ける加奈が、ベランダから落ちるところから始まるのだが、いかにも芸のないオープニングである。そして、父聡のもとに連絡が届き、彼には上司で、親しくしてくれる早苗という同僚がいる。

最初は、事故か自殺としていた加奈の死ですが、パソコンの中の日記を見た聡は、咲と真帆にいじめられていたと確信し、二人を追い詰めていくのが本編。

この手の物語は、ワキガしっかりしていれば、それなりに見応えがあるものだが、早苗役の谷村美月も今ひとつ精彩に欠けるし、なんせ、主演の咲役の吉本実憂が今ひとつ可愛くない。国民的美少女コンテストグランプリということなので、納得がいく。このグランプリを取った人で大成した人がいないからです。

とはいっても、追い詰めていく過程はありきたりだし、映像も平凡、演出も聡がやたら酒を飲むシーンという安っぽい演出なのである。

心理学の教師なのだから、その方面から咲と真帆を責めていく展開のはずなのだが、その展開がもう一つメリハリもないので、ただの娘を亡くした父親とやたら頭の良い女子高生のありきたりのドラマにしか見えない。どこかの事務所にスカウトされる咲の下りも、どうも弱いし、意味が見えない。真帆もその存在感が生きてこない。

結局、自らの命をかけて、咲を刑務所送りにした聡の最後の賭けが際立つクライマックスにならないのである。適当に作った原作ものという感じの一本、とにかく暗かった。


「岸辺の旅」
これは良い、胸の奥深くにじわっとしみこんでいくような、なんとも言えない感動が残る秀作でした。監督は黒沢清です。ファンタジーなのですが、現実とも取れ、主人公瑞希の心象風景のようにも見える。

一人の少女がピアノをひいているシーンから映画がはじまる。傍に、ピアノを教える瑞希の姿。家に帰ると一人で、白玉を作っている。ところが、いつの間にか、後ろに夫優介が立っている。そして自分は死んだと告げるのだが、平然と受け入れ会話する瑞希。三年の失踪ののち現れたそうだが、二人が普通に会話するこのオープニングから、現実とも夢とも区別がつかない不思議な世界に引き込まれるのです。

優介は、失踪していた三年間に出会った人たちに会いに行こうと瑞希を誘い、物語が始まる。しかも、先々で会うのは、優介同様、この世にとどまっている人もいるのである。

最初は新聞配達のおじさん。快く二人を迎えるが、ある朝突然、あの世に旅立ち、住まいは荒れてしまう。このエピソードで、この世にとどまる人の宿命をさりげなく説明する。

続いて食堂を営む夫婦、さらに、山深い農村をクライマックスに、不思議な旅が描かれる。時折、瑞希が突然ベッドで目を覚まし、まるで、夢だったかのような描写も挿入、さらに、時折霞のような白い霧が画面に被さり、この世の物語でないかのようにも見せる。

そして、ラスト、時がきた優介は、最後の夜にもう一度瑞希を抱き、翌朝、海岸で、突然消えてしまう。最後の最後、瑞希が「家に帰ろうよ」と、すがるセリフが、とっても切ない。

そしてまた一人になった瑞希がフレームアウトしてエンディング。

不思議な空気が全編を覆う作品で、下手をすると、ベタなファンタジーになるところを、黒沢清は見事な感性で、寸止めの演出を繰り返す。原作があるので、物語は大きく変更していないのだろうが、映像表現として、見事に昇華された映画だと思います。素晴らしい一本でした。