くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「明日の食卓」「クルエラ」

「明日の食卓」

傑作とまでは行かないけれど、なかなかな一本、相当な仕上がりの作品と評価する人もいるかもしれない映画でした。ぐいぐいと迫ってくる嫌悪感が一気に晴れてしまうラストへのリズム作りは見事で、ありきたりにエピソードが絡むようで絡ませない絶妙のバランスは原作がいいのか脚本がいいのか、はたまた演出の妙味か、見応え十分な映画でした。子供と母親のあまりに赤裸々な物語に賛否両論があるかもしれないけれど全否定できないニュアンスを醸し出しているのは素晴らしい。監督は瀬々敬久

 

母親だろうか一人の女性が子供らしい少年に暴力を振るってしまっているぼんやりした映像から映画は幕を開ける。

子供のために郊外の夫の実家の隣に家を建て、夫を会社に送り迎えして、頭のいい一人息子石橋ユウを育てる専業主婦のあすみ。何不自由ない生活だが、隣の義母が不気味なくらい絡んで来る。あすみに近づいてくる子供のクラスメートの母親若杉は、何かにつけ親しげにやってくる。

 

ここに兄弟喧嘩が絶えない石橋ユウという兄と弟を育てる留美子。夫はカメラマンで、留美子もかつては働いていたが、今は有名な子育てBLOGを書いている。兄のユウは何かにつけ弟に辛く当たり、その対応に奔走しているが、夫は子供たちにいい顔をするだけで家庭のことは放ったらかしである。

 

大阪に住むシングルマザーの石橋加奈にもユウという10歳のサッカー好きの子供がいる。いくつも仕事を掛け持ちしながら必死で毎日を送る加奈。そんな母に子供ながらに気を使うユウ。

 

物語は三人の母とそれぞれ同じ名前と同じ歳の男の子との物語を交互に描いていく流れになる。最初は平穏な家庭が次第に崩れていき、その中で母と息子に微妙な関係が生まれてくる流れが実に上手い。

 

あすみの息子のユウは、優等生だと考えていたが、ある時、クラスメートが暴力を振るわれたという苦情が学校に入り、あすみに電話がかかる。しかし、一旦は誤解だと判明したが、実はユウが別の精神障害のある男の子にいじめをするように指図していたことがわかる。あすみが問い詰めると、ユウは開き直るというより、まるでサイコパスのように振る舞い、あすみの夫も気が動転してしまう。どうしようもなくなったあすみに近づく若杉、さらに義母の視線もあすみを追い詰めていく。

 

留美子は、BLOGの人気を知った雑誌社から記事の依頼が来る。やがて忙しく過ごすようになり、夫にも家事を分担してもらおうとするが、留美子の夫はカメラマンの仕事をクビになってしまう。次第に自暴自棄になっていく夫を目の前に、仕事の多忙さもあって子供の世話を含め留美子は追い詰められていく。

 

加奈のところにある時、自堕落な生活をしている弟が訪ねてくる。結局は金が目当てだったのだが、その場は適当にいなす加奈。しかし、加奈の息子ユウはそんな母に次第にプレッシャーを感じ始める。加奈はバイト先の一つにリストラにあってしまい、落ち込んで帰ってみると、加奈の弟が留守にやってきて加奈のなけなしの金を持っていったことがわかる。途方に暮れる加奈にユウの存在が大きくかぶさってくる。

 

あすみの夫は義母に気を使い、ユウがああなったことであすみは自分を責める。次第に追い詰められてくるあすみ。ある時、帰宅するとユウが義母に暴力を振るっていた。あすみはユウの首を絞めてしまうが、すんでのところで手を離す。どうやら義母は認知症になっていて庭で用を足していたのをユウが知って、母に隠していたらしいことがわかる。あすみの夫は義母を実家に連れて行って、家の中がゴミ屋敷のようになっているのを見て泣き崩れる。一方、あすみは妊娠していた。絶望していくあすみに若杉は新興宗教を勧める。

 

仕事で疲れた留美子が戻ってみると、夫は家の中にビニールプールを置いて酒を飲んで子供らを遊ばせていた。留美子はついにキレ、夫を追い出し、子供らに襲いかかってしまう。

 

明日の生活にも絶望してしまった加奈は、ユウに襲いかかってしまう。自分がいない方が良かったと叫ぶユウ。

 

しかし、三人の母は、子供たちを殺さんとするが結局思いとどまる。留美子のBLOGを読んでコメントしてきた一人の女性を留美子は刑務所に尋ねる。その女性輝子は、ユウという名の10歳の子供を殺して収監されていた。後悔する中、留美子のBLOGを読んでコメントしていたのだ。

 

留美子は夫と離婚を決める。夫が出ていく日、兄弟に留美子は、二人が生まれてきてくれて良かったと話す。時がたち、この日、子供たちは元夫と遊びに行く日だった。ユウから留美子に電話がかかる。空に飛行機雲が見えていると話す。

 

加奈と息子のユウは、ユウが行きたがっていた海に遊びにきていた。ユウが空に見える飛行機雲を見つける。

 

あすみは若杉の車で新興宗教のところへ向かっていた。しかし、一人歩くユウを見つけ、あすみは車を降り、ユウを追いかける。ようやく追いついたあすみはユウを抱きしめる。ユウもあすみを抱きしめる。空に飛行機雲が見えている。

 

三人の母と息子はまた元の生活に戻ったのだろう。誰もが同じような物語を歩んでいる。たまたま輝子は幼い息子を殺めてしまった。しかし、自分らと全く変わらない母と息子だったのだ。そう言って映画は終わっていきます。

 

ラストで一気に希望を描き出す手法が実にうまく仕上がっていて、それまでのどうしようもない殺伐とした展開を一気に晴らしてくれます。手放しで絶賛するほどの仕上がりではないものの、なかなかの一本でした。

 

「クルエラ」

普通に面白いのですが、エピソードの緩急が単調で、二転三転しながらも盛り上がっていかない。その上、脇役が生き生きしていないので、映画全体がゆるく仕上がってしまい、主人公が浮き上がっていかないのはちょっともったいない。さらに悪役が悪役らしさが物足りなかった。まあ、二時間を超えるドラマに飽きずに見れたからいいとしましょう。。監督はクレイグ・ギレスピー

 

主人公エステラが生まれるところから映画が始まる。生まれながらに髪の毛がブラックとホワイトの特殊な姿な上に、性格が個性的なために嫌われるばかり。そんなエステラを母は庇い、一流の学校へ行かせるがそこでも問題を起こすのでとうとう退学になる。母は彼女にファッションの才能を生かすべくロンドンへ連れて行こうとするが先立つものを手に入れるためにかつて女中として使えた屋敷に向かう。

 

折しもパーティが開かれていた。車で待っていたエステラが興味本位にパーティ会場へ行ったために大騒動になり、崖に立つ屋敷の端で女主人に金を頼んでいた母のところまで逃げてくる。しかしエステラを追ってきた三匹のダルメシアンがそのまま母に飛びかかり母は崖の下に落ちてしまう。エステラは必死でゴミ車に飛び込んで逃げ、ロンドンの噴水までたどり着いて眠ってしまう。

 

そこに通りかかったのが悪ガキジャスパーとホーレス。二人はエステラを仲間にして悪事を働き始める。そして、時が経ちエステラは大人になりボスになる。ジャスパーとホーレスはかねてからのエステラの夢を叶えるべく、ファッションの店にエステラの就職を決めるが、そこでこき使われたエステラは酔いに任せてショーウィンドーのディスプレイをする。そこへやってきたのがファッションデザイナーで大成功したバロネス。彼女はエステラの才能を認めて自分の工房へ連れ帰る。

 

バロネスに気に入られたエステラはみるみる出世していくが、ある時、母が持っていたネックレスをバロネスが持っていることを発見、バロネスこそ母の仇だと知る。そして彼女のファッション界での地位を剥奪するべく、自らクルエラと名乗って、ゲイの縫製人アニータの協力の元、ジャスパーらとバロネスに復讐を始める。エステラはクルエラの名前でカリスマ的なファッションデザイナーとして名前を売り始める。そして、バロネスを倒すべく、そのパーティ会場に乗り込む。ところが、母の形見のネックレスを奪いに行くはずが、金庫にしまっていると思ったネックレスをバロネスが身につけていたために計画が狂い、さらにネックレスをバロネスの飼っている三匹のダルメシアンに飲み込まれてしまう。さらに、バロネスに後をつけられて、クルエラは椅子に縛られ火をつけられ殺される。

 

と思いきや、すんでのところで、バロネスの側近のジョンに助けられる。そしてネックレスも手に入るがそれはある箱を開ける鍵になっていた。その箱を開けると、クルエラが実はバロネスの実の娘だという出生証明が入っていた。子供を欲しないバロネスは産んだ子供を処分するようにジョンに命じていたが、巧みに使用人の女に託し育てさせていた。そして、育ての母をあの夜、故意に犬笛で犬を呼び崖から突き落とさせたことがわかる。

 

クルエラはバロネスに母の仇として復讐を決意、バロネスが慈善パーティーとして崖の上の屋敷で開催する場に乗り込むことにする。ジョンの手筈で招待客全員にクルエラの姿になってもらい、そこに紛れてパーティ会場へ乗り込む。そして、崖の上にバロネスを呼び出したクルエラは、同時に招待客や警察もそこに密かに呼び出す。エステラの格好になったクルエラはバロネスを問い詰めるが、バロネスはクルエラを突き落とす。しかし、集まった招待客らに見られた上に警察にも目撃され、逮捕される。

 

クルエラは落ちる途中でパラシュートを開き助かる。そして正当な相続人としてバロネスの屋敷を手に入れたクルエラは、ジャスパーたちと一緒に屋敷にやってきて映画は終わる。

 

ディズニーきっての悪役クルエラ誕生に物語だが、普通の復讐劇になっている上に、キャラクターそれぞれにあまり毒がなくて、ちょっと緩急の弱い仕上がりになった気がします。お話が面白いので最後まで見れましたが、もう一工夫の演出が欲しかったです。