くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「地獄花」「東京家族」

地獄花

「地獄花」
日本初のビスタビジョン作品。
というのが売りというだけの作品でした。特に秀でたシーンも特筆するほどの部分もない時代劇冒険活劇です。
山賊たちの活劇の中に描かれるラブロマンスという感じのドラマ。

盗賊の首領麿の妻である京マチコ扮する主人公ステが山賊の一味馬介に手込めにされ身ごもってしまう。それに怒った麿がステを追い出し、死を覚悟したステは麿の子分の勝に助けられ子供を産むが、未練がましい麿とその一味が襲ってくるのがクライマックス。

伊藤大輔得意の提灯シーンが見られない代わりに船に乗った勝たちを筏に乗った山賊たちがたいまつを手に持って追ってくるスペクタクルシーンに再現されるあたりはさすがに見応え十分な迫力あるシーンになっています。
俯瞰でとらえた筏が集まってくる下りがなかなかの見所で、ゆっくりと一隻の船に集まってくるシーンは見事。

結局、逃げられないと悟った勝は身を投げるがその後を追ったステをみて彼らを助けることにしてなんと勝もステも助かって、ステが貴族たちを襲ったときに一人の姫を助けそのときに礼にもらった笠を頼りに都へ行くのがラストシーン。

本当に単純な娯楽活劇大作で、ラストの無理矢理ハッピーエンドはアメリカン西部劇の如し。室生犀星原作とはいえシンプルな大作に仕上げた大映の姿勢は当時の映画黄金期のおごりとさえ思える。まぁ、こんな映画もあるんだという一本でした。


東京家族
嫌いな山田洋次監督作品で、かつ名作「東京物語」へのオマージュだと豪語する一本で、かなりためらったが、一応みようか期待もせずに出かけた。エンドタイトルの後に「小津安二郎に捧げる」などとテロップがでるが、小津安二郎にも「東京物語」とも比べることは愚の骨頂だと最初に書いておきたいと思います。

山田洋次監督の才能は納得しているし、このレベルの映画を作れる監督は今の日本映画界には少ないことは事実なのです。

さて、今回の映画ですが、あら探しをしながら期待もせずにみていたのですが、いつの間にか引き込まれてしまい、クライマックスではしっかりと涙があふれてきました。

山田洋次というひとは映画をリズムで作る監督です。特に構図やカメラテクニックにこだわるのではなくて、淡々と撮っているようでしっかりと映像が独特のテンポを生み出してくる。その意味で小津安二郎監督と似ている部分があるのかもしれません。もちろん、小津監督は一種の天才肌なのでそのオリジナリティは誰にもまねできないのですが。

映画は老夫婦が瀬戸内海の田舎の島から東京で暮らす子供たちに呼ばれるところから始まります。そして、兄、姉、次男と家を渡り歩きながら物語が語られていく。これという劇的な展開はないけれども、明らかに物語は完全なフィクションである。つまり、あり得そうであり得ない話なのです。でも、それが映画なのですからその点は見事と呼ばざるを得ません。もちろん、先頃の日本の国は方向がどうのととか、蒼井優妻夫木聡が知り合ったきっかけが東北の大震災のボランティアだったりと鼻につくシーンはいただけませんが、それを無視すれば良質の映画に仕上がっていると思うのです。

開業医をする兄、美容師をして一人立ちしている姉、舞台美術のアルバイトのような生活をする次男と渡り歩きながら、都会へでてきてもただ景色を眺めたりテレビを見たりするだけの老夫婦の描写は実にうまい。

次男妻夫木聡蒼井優恋物語が唯一物語が動く瞬間で、そこにクライマックスを配置し、母との心温まる会話とその後の急死で一気にエンディングに引き込む構成のうまさは絶品。

エピローグで島に帰った父が蒼井優に「よろしくお願いします」と頭を下げるラストシーンは涙が止まらない。

様々な人生を生きて様々な経験を重ねてきた大人でこそこの映画の本当のすばらしさを理解できて、涙するのかもしれない。その意味で大人の映画であり、その意味で普遍のテーマに基づいた秀作だったと思います。いい映画でした。