くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「スティーブ・ジョブズ」「ホテルコパン」

kurawan2016-02-18

スティーブ・ジョブズ
アップルの創始者スティーブ・ジョブズの半生を描いた物語、監督はダニー・ボイルである

アップル社が新しいコンピューターMacを発表するシーンから映画が始まる。今にも出番がくるというスティーブ・ジョブズの様子が描かれる。この映画、表舞台のシーンは一切ない。ひたすら舞台裏で繰り返されるスティーブと関係者、家族との物語を、めまぐるしいほどに応酬される会話と慌ただしくカットバックされる映像と、クローズアップでスティーブを追いかけていくカメラワークで描いていく。

次々と繰り出される専門用語や人物の名前、そしてアップル社の現状を整理していくだけでも大変な作業になるのだが、このスピードあるリズムがこの作品の特徴であり、監督ダニー・ボイルが目指したものだろう。エンドクレジットで流れるカントリーアンドウェスタンのごときテンポが、この作品のリズムなのである。

決してドラマティックな展開を求めず、常に前に前に進みながら、次のことにその頭脳を向けていくスティーブ・ジョブズのカリスマ的な姿をドキュメントのごとく追いかけていくのだ。

もちろんセリフのいたるところに、伝説の製品を生み出していく伏線が張り巡らされている。しかし、映画の視点はあくまでスティーブ ・ジョブズの人物である。

この映画は、スティーブ・ジョブズの舞台裏を徹底的に描くことで、彼の天才たる所以を語っていく。ちょっと風変わりな脚本ではあるものの、そのオリジナリティの面白さで最後まで画面に釘付けになる。もちろん、ダニー・ボイルの映像感性があっての仕上がりであることは否めないし、結果それなりのクオリティに仕上がった映画であることは確かです。

Macの販売が不調に終わり、会社を追われ、自らの新製品を企画発表するも失敗、一方でアップル社も低迷し、ついにスティーブ・ジョブズを再度呼び入れiMac発売へとこじ付ける。

娘リサとの確執、かつてのCEOジョンとの再会と和解、何もかもが人間スティーブ・ジョブズを蘇らせるエンディングだけが唯一無二に人間らしい温かみを見せる。だからこそこのラストに胸打たれるのです。良い映画です。魅せてくれます。見てよかったと思える一本でした。


「ホテルコパン」
途中までどうなることかと思われたストーリー展開と登場人物のエピソードだが、ラストの処理が実にうまいので、最後はなんか良い映画を見たかもという感想で締めくくることができました。監督は門馬直人という人の初長編映画です。

かつて賑わった長野オリンピックのジャンプ台のそばに立つホテルコパン。今は見る影もなく寂れ、客足も遠のき、オリンピックさえ忘れられている。ホテルのフロントも従業員も活気がないが、一人支配人だけが一人相撲のように張り切って盛り上げようとしている。

ホテルのHPに従業員の顔写真をアップしたところ、なぜか幾人かの予約が入り、様々な人が泊りにきた。映画はこれらの人々の群像劇という形をとる。

周りから浮いている支配人の描き方と、やたらわざとらしく暗い市原隼人扮するフロント、彼はかつていじめられていた教え子を自殺させ、教師を辞めた過去がある。その彼が妙に素人臭く、さらに、新興宗教の教祖のアクの弱さ、かつての女優と付き人、ベタベタのカップル、さらに自殺した生徒の母と、流れる前半部分はどうにもつまらなかった。

しかし、若いカップルのためにパーティをしようと支配人は計画するあたりから映画が動く。

支配人が、別れた妻とスーパーで再会、娘を誘拐して警察に捕まる。パーティでは、若いカップルの男の方が実はそんな気はないと女を突き放す。教祖が連れてきていた女は実は詐欺師。フロントマンの過去、教え子を死なせたトラウマを払拭するために、自殺した息子の母は息子のノートを渡して、立ち直って欲しいと語る。何もかもが一気に明るい希望のある結末に流れて、心地よいラストシーンへ向かうあたりはとっても良いのです。

しかも、物語の途中で出てきた脇の人物、いじめをしていた同級生が自殺した現場に花を捧げていたり、教祖を慕っていた教団幹部の女が、教祖に救われたのだからもう一度一からやり直そうとしたり、それぞれ最後にちゃんとストーリーに生かされているから良いのです。

前半、見にきて後悔するかと思えた映画でしたが、ちょっと良い映画だった気がします。見て損はなかったです。