くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「エヴェレスト 神々の山嶺」「家族はつらいよ」

kurawan2016-03-17

エヴェレスト 神々の山嶺
もっとしょぼい映画かと思ったが、登頂シーンはそれなりの努力の跡が見られるし、迫力こそ普通とはいえ、ドラマティックな映像でカバーするというスタッフの意気込みは感じられる映画でした。ただ、主人公深町のドラマであるところが、羽生を演じた阿部寛の存在感の方がすぐっていて、視点がぼやけてしまった感じです。監督は平山秀幸です。

登山写真家の深町が、ネパールで、かつてエヴェレスト登頂で消息を絶ったマロリーのカメラを見つけるところから物語が始まる。マロリーが初登頂なのかを決める証拠にもなる宝物を買い求めた直後、その店にやってきたのが、7年前に行方不明になった登山家羽生の姿だった。このマロリーのカメラという小道具が途中で消えてしまう。この辺りの処理がちょっと雑である。

深町は日本に戻り、羽生が挑戦を企画している写真を撮りたいと会社に掛け合い、再度ネパールにやってくる。そして羽生を見つけ、彼が挑戦しようとしているエヴェレスト南西壁単独登頂を写真に収めるべく同行する。

クライマックスは、二人がエヴェレストに登頂していく場面なのだが、さすがに限界があるのか、結構あっさりとした長さで終え、羽生を残して、降りた深町がもう一度登頂して、凍りついた羽生の姿を発見するラストシーンへ続く。

深町の山に対する疑問、登山家たちの心を発見するという人間ドラマなのだろうが、その部分が非常に弱い。岡田准一の演技不足か、監督の演出不足か、どこかに物足りない。

尾野真千子の存在感、佐々木蔵之助のキャラクターもあまり意味をなしていない。全体に深さが足りないし、脚本が雑なのである。

頑張っている感は伝わるのにもう一歩残念な作品でした。


「家族はつらいよ」
山田洋次監督は嫌いである。しかし、悔しいかな、この作品はちょっとした傑作でした。ラストが若干弱いですが、細かく張り巡らされる細かい笑いの演出と展開のテンポのうまさは、さすがに最近の若手の追随を許さないほどの感性の良さを見せます。これが映画作りですと言わんばかりの職人芸には頭が下がりました。お見事。

映画は、宣伝フィルムで繰り返し映されているように、ある家族の父親が長年連れ添った妻から離婚してくれと言われるところから始まる。それも、妻の誕生日に、夫が、何か欲しいものがあるかと聞かれて、離婚届に判が欲しいと言い出すのだ。この導入部がまずうまい。

後は、このことで右往左往する家族の姿は、かなりステロタイプ化された描き方をしているものの、どこかにファンタジックな色合いになってくる。飼い犬の名前がトトというあたり、その狙いもあるのかもしれない。

細かい演出で、クスッとした笑いをあちこちに配置し、主となる話に、次男の結婚話を絡め、さらに孫の野球のエピソードなどもさりげなく挿入、そして長女夫婦の個性的な存在感を交えて、家庭の中でのドタバタをまるで絵空事か何かのように描いていく。

クライマックスは、ふとした一言から父が倒れ、一気に家族が別の意味でまとまった後に、父が回復して、全て丸く収まったかの終盤へと流れていく。

帰宅した父は、離婚届に判を押した後「今までありがとう」という。結局その一言のために、離婚届を破る。外に降っている雨、「東京物語」のラストの映像、カメラは外からガラス越しに家族の中を映してエンディングを迎える。この辺りはさすがにうまい。

基本的に大嫌いな山田洋次の作風だが、認めるべきところは認めざるをえない素晴らしい出来栄えの一本だったと思います。