「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」
上品すぎる映像と展開で、正直、退屈というより、平坦すぎて困ってしまったというのが正しい。確かに物語の構成はよくできているのですが、いかんせん、ストーリーテリングの演出があまりよくない。しかも、主演のイアン・マッケランがお爺さん顔すぎて、30年前の回想と90歳を超えている現在のホームズが別人に見えないため、混乱してしまう瞬間があるのです。監督はビル・コンドン。
イギリスの田園風景の中を汽車が走っていく。中に乗るのは有名なシャーロック・ホームズ。相棒のワトソン博士が作り上げた姿とは違い、いかにもイギリス紳士である。このよくあるホームズ像と本当はこうなのだという映像自体もまずお話を混乱させる。
今や90歳を超え、ミツバチと暮らすホームズは日本旅行から帰ってきた。待っているのはお手伝いとその息子のロジャー。日本では山椒を求めてきた。最近、物忘れがひどく、その記憶を改善しようという意図もある。
英国らしい落ち着いた緑の風景が画面を覆い、よぼよぼに近いホームズの話はこうして始まる。
30年前、ある男からの依頼で取り組んだ事件が悲劇の結末となり、その謎をもう一度明らかにするべく、記憶を頼りに文章に綴り、ロジャーの助けを借りながら真相解明に取り組むというのが本編なのだが、どうも、時間の交錯とミツバチの話、日本に出かける下りと、冒頭の山椒のエピソードが絡まって、ストーリーが見えてこない。凝りすぎたといえば凝りすぎで、さらに家政婦がポーツマスへ移るという話まで絡んできて、無駄なエピソードが肝心の話を煙に巻いているような展開になるのです。
最後の最後、日本で会ったウメタニという男とかつてホームズに依頼してきたケルモットと混乱していると指摘され、一気にホームズの頭の中が整理されていく。という流れのようだが、それまでが本当に謎が謎を呼んでしまい、まるでホームズの頭の中のごとく見えてしまう。
さらにエピローグとしてロジャーがスズメバチに刺され瀕死の状態になる下り、病院でホームズが家政婦のマロリー夫人に、あの家は譲るけれど、最後までここに住んで欲しいと願う姿でエンディング。
ワトソン博士が結婚をして去ったことからの孤独感、かつての事件で、明快に真相を語ったために自殺に追い込んだケルモット夫人、など、老年を迎えた老人ホームズの寂寥とした孤独が描かれた感じの作品で、決してミステリー性を前面に出したものではないと思います。その意味で非常に上品な作品であり、もう少し、見せるという面白さを組み入れ、エピソードを整理したらすんなり入り込んだのかもしれません。いい映画なのですがね。