くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「木靴の樹」

kurawan2016-05-10

木靴の樹
ほぼ40年ぶりに見直した。公開当時、ほとんど印象に残るほどの記憶はない映画だが、今見直すと、どんな感想になるのかという興味からである。監督は巨匠エルマンノ・オルミである。

北イタリアの貧しい農村で暮らす四組の小作人の物語が、まるで散文詩のように描かれていく。特に劇的な物語があるわけでもなく、さりげない日常のエピソードが綴られていく。

牛の病気、金貨を拾う男、若者同士の恋、飲んだくれの息子。収獲の三分の二を地主に持って行かれ、日々の生活を必死で生きている。なけなしの種を、家の壁際の暖かいところに植えて、少しでも早く収獲して街で売る老人。病気になれば祈祷師を呼び、命じられるままに洗濯をこなす女たち。

ミネクという少年は6キロの道のりを学校へ通うが、ある冬の日、木靴が割れてしまう。父は、仕方なく道端の気を切り倒し、それで木靴を作るが、その木も地主の所有物なのだ。春になり、そのことがばれて、家を追い出されることになるミネクたち家族のシーンがラストになるが、一緒に生活している農民たちにもなすすべがない。題名の由来のこの出来事さえ、映画の中ではほんのわずかなエピソードなのだ。

家の中のランプの光、戸外の寒々とした景色。新婚で出かけた若夫婦がミラノでみ目の当たりにするデモの驚きなど、描かれる景色それぞれが、素朴で飾り気がない。しかし、どこか物悲しい物語として画面から伝わってくる様は、なんとも言えない感動を胸に呼び起こしてくれます。

決して面白い映画ではありませんが、ワンランク上のクオリティを醸し出してくれる名作だと思います。やはり良い映画ですね。