くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「君がくれたグッドライフ」「緑はよみがえる」「ショック集

kurawan2016-05-26

「君がくれたグッドライフ」
難病もの映画というのは苦手なのですが、一応見に行きました。とにかく全体に雑な作りになっているのが残念な一本で、どこに視点が置かれているのか、途中がややぶれてしまっている。監督はクリスティアン・チューベルト。

主人公がサイクルトレーナを漕ぎ始めるシーンから映画が始まる。軽快な音楽がかぶるので、このままテンポよく流れていくのかと思いきや、途端に滞ってくる。

主人公のハンネスたちは毎年自転車で旅行をする。そして今年はベルギーに行くことになった。なぜかというと、ベルギーでは尊厳死が認められているからである。実はハンネスは筋肉が硬化していくALSという病気で余命いくばくもないのである。旅の途中で友人に告白し、ベルギーで看取ってくれと頼む。

ストーリーの中心はこのままハンネスの最後の何日かの物語なのだが、旅の途中で、彼らが行う恒例の課題の描写が適当なので、物語に生きてこない。さらに、友人たちそれぞれのドラマも挿入してるが、それが全体にどうというものも見えない。

尊厳死の是非を問うわけでもない展開だし、ラストは、皆に看取られハンネスは死んでいき、1年後、ハンネスの恋人が高所恐怖症を克服してバンジージャンプをしているシーン、そして浜辺で「ハンネスここにあり」という落書きの前で友人たちが座っているシーンでエンディング。ラストは映画の絵になっているのですが、それまでが今ひとつよくなかった。


「緑はよみがえる」
第一次大戦末期、最前線の塹壕の中の物語を、フィルム撮影による美しい映像で描いた作品ですが、全編夜のシーンかつ塹壕の中が中心なので、正直何度か意識がなくなってしまった。監督はエルマンノ・オルミである。

山肌に浮かぶ月、雪深い山の中の景色、走り去るうさぎ、焼夷弾の明かり、などとにかく映像が美しい。狭い塹壕の中で、ただ、故郷からの手紙を心の支えに耐えている兵士たちの姿。誰が主人公という展開はなく、今にも戦闘の真っ只中に放り込まれるのではという緊張の中、病気が流行り、食べ物も少ない過酷な世界が描かれる。

一人の若い中尉がやってくるが、戦争の悲惨さの現実を直視するのみである。本部が決めた、わずか先にある廃墟への移動など、すぐに敵のスナイパーに銃撃されてしまう。

この映画は映像の美しさもさることながら、音響の効果的な演出も目をみはる。静けさの音の合間に、突然敵の砲撃で、耳をつんざくような爆弾の音が次々と響き、まるで場内が揺れんばかりのインパクトが与えられ、塹壕を逃げまどう兵士たち。終盤にドキュメントフィルムを挿入し、やがて映画はエンディングを迎えるが、どこに向かって終焉したものでもない。

山肌に浮かぶ美しい月のシーンで暗転。

戦争の悲惨さのを映像美で綴ったような作品ですが、さすがにしんどかった。


ショック集団
なるほど、サミュエル・フラーと言える一本。B級映画の極みのような作品だった。主人公の枕元にオーバーラップする恋人のキャシーの姿が語りかけたり、正常だった主人公が狂気に変わり、病院の廊下に雨が降り出したり、思いつくままに遊びの数々が楽しい映画だった。

映画は、これから精神病患者を装って病院に潜入するべく稽古している主人公のジョニーのシーンから始まる。精神病院で起こった殺人事件の目撃者から証言を聞き出すためである。設定は恋人のキャシーを妹に見立て、妹への異常性衝動から病院へ入るという展開。最初は嫌がっていたキャシーだが、結局恋人のためと同意、ジョニーは見事潜入する。

しかし、異様な世界で、次第に本当の自分を見失いかけていくジョニー。しかも、キャシーを妹と思い始める。それでも順番に目撃者に接触していくのだが、電気ショック療法を受けたあたりから、ジョニーは完全に自分を失ってしまう。そして、最後に犯人の名前を聞き出したにもかかわらず、体が硬直して異常な姿になってしまってエンディング。

物語の流れは、最初から大体わかるのですが、様々な映像テクニックを駆使してみせる演出の面白さに引き込まれてしまいます。安っぽいといえば安っぽいのですが、その安っぽさがサミュエル・フラーの魅力なのでしょう。楽しかったです。