くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「寄生獣 完結編」「ザ・トライブ」「ラスト5イヤーズ」

kurawan2015-04-28

寄生獣 完結編」
面白かった、しかも、泣けるほどに感動し、その上、何かを考えさせられてしまう奥の深さに、ものすごい充実感を味わえる娯楽映画だったと思います。

今回、とにかくすばらしかったのは深津絵里扮する田宮の存在感が、この作品の、いや原作のメッセージをすべて代弁するような気がします。しかも、終盤、彼女が赤ん坊を守って死ぬシーンは圧巻の演技力に圧倒。おもいきりためた演出でじっとカメラがとらえるにもかかわらず、画面から目を逸らさせない迫力はすばらしい。

ここで、思い切り盛り上げてからが、若干くどい気がしないわけではないが、そこは原作のエピソードを大切にしたいという思いだと考えれば、許容範囲であった。

本当に、寄生生物が悪で、人間が善なのか?その疑問が全編でも語られたが、後半にいたって顕著に訴えてくるし、キャストの思い入れもしっかりとメッセージとしてこちらに伝わってくる。

山崎貴のCG演出も巧みで光っているし、前項編とみて、その完成度はなかなかのものだったと思います。いい映画でした。


「ザ・トライブ」
全編ろうあ者のみで描く、手話のみの作品。監督はウクライナのミロスラヴ・スラボシュツキーという人である。

その独創的な作品性というのは、健常者がみてこその世界であって、確かに音楽も排除し、効果音だけというのは、個性的だが、聾唖者からみれば、手話は理解できるのだから、普通に聞こえている状態ということになる。その意味で、あくまで健常者側からでこそという前提はいかがかと考えざるを得ない。

しかし、その部分を排除して、映像作品としてこの作品を見ると、たしかに、長回しで延々と対象を追いかけるカメラワーク、シンメトリーな構図と一点透視の画面づくりは、決して、平凡な映画とはいえないことも確かなのです。しかも、手話のみとはいえ、その身振り手振りの感情表現は、いつの間にか観客を物語の中に引き込んでいくし、ストーリーのリズムもつかめてくるから、大したものなのだ。

物語は、バス停をまっすぐにとらえる画面から始まる。次々と路面バスが止まっては去っていく。主人公のセルゲイは聾唖者の寄宿学校に転校するが、そこでは、売春、犯罪が横行する世界で、それを取り仕切るトライブという組織一族による集団として形作られていた。

SEXと過激な暴力シーンが繰り返され、さらに、その感情表現として、極端な身振り手振りが加わる。まさにノワールの渦中に放り込まれる感覚である。

セルゲイは、次第に組織で頭角を現すが、リーダーの女アナと関係を持ってしまう。そして、自らの抑えきれない感情の中、組織のリーダーを殺し、メンバーを殺し、一人、寄宿舎をでていってエンディング。

強烈なストーリーテリングが伝わる一本で、全編手話のみとはいえ、それはこの作品のキャッチフレーズにするには、ちょっと違うきもする。たしかに、音楽もせりふもないために、普通以上に長く感じられるのだが、それでも、見終わって、凡作だったという印象はない。この監督の次の作品が楽しみである。


「ラスト5イヤーズ」
ジェイソン・ロバート・ブラウン原作の傑作ミュージカルをリチャード・ラグナヴェネーズが監督をした作品だが、どうも映画作品になりきっていない感じでした。

ひたすら、手持ちカメラが歌っているキャストを追いかける感じの映像なのですが、ストーリーテリングがおざなりになってしまって、物語が伝わりきれない。その上、ミュージカル映画になっていない。あくまでミュージカルの舞台止まりなのが残念な映画でした。

映画は、一軒の家をとらえ、カメラがその窓から入っていくと、最愛の夫ジェイミーが去った部屋で、これまでの幸せを振り返るキャシーの歌声に始まる。

映画は、キャシーとジェイミーが出会い、別れるまでの5年間を描いていく。みるみる小説家として成功していく夫ジェイミー、女優としての成功からどんどん遠ざかる妻キャシー、一目惚れして、恋が燃え上がり、幸せの絶頂のまま結婚した二人なのに、いつの間にか二人の時間の流れがどんどんずれていく。

誰もが、どこかで、何かの形で経験する愛する人との時間のずれ、それが、美しい歌声に乗せてつづられていくはずなのだが、ミュージカルとしてのおもしろさが描ききれないために、煮えきらないままになっていく。

テロップを挿入して、時間を前後させて、幸福な瞬間と、溝ができていく課程を繰り返していくが、最後の、夫ジェイミーが去っていくクライマックスが生きていない。さすがに、傑作ミュージカルというだけあって、プロットはしっかりしているのに、物足りない、入り込めないのです。

でもキャシーを演じたアナ・ケンドリックスもジェイミーを演じたジェレミージョーダンもその歌声は、とっても透明で美しいし、その意味ではミュージカルになってるんですけどね。ほんのどこかずれたために、未完成になってしまったんじゃないかと思える一本でした。