くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「忘れえぬ慕情」「裸足の季節」

kurawan2016-07-11

忘れえぬ慕情
とにかく、退屈な映画でした。ストーリーらしいものはなく、ただ日本の文化や風俗を紹介していくだけの展開です。当時の映画予算の20倍近くをかけた超大作ということですが、どこにお金がかかってるかわからない。二度の睡魔が襲いました。監督はイブ・シャンピで、この翌年、主演の岸恵子はこの監督と結婚をします。岸恵子の転機となった作品という位置付けで、いわば珍品という映画です。

フランスからやってきた造船技師マルサックは日本に日本女性の恋人乃理子がいる。長崎を舞台にふたりの仲睦まじいシーンから映画が始まる。そこへフランスからフランソワーズという女性が造船技師を追いかけてくる。なんと演じるのはダニュエル・ダリューである。

こうして三角関係の話が中心になる。どっちつかずに関係を続けるマルサックがなんとも日本人の外人への視点が感じられ、逆にフランス人からの日本人への偏見もちらほらする描写が見られる。確かに垢抜けたこなしでフランス語を話す岸恵子の存在感は独特の美しさがあるが、どこか作品の中で浮いている。フランス人俳優たちも無理やり日本の文化の中に放り込まれたような違和感がり、とても馴染んでいるように見えない。

クライマックス、巨大台風が舞台の長崎を襲い、乃理子は死んでしまう。マルサックは日本に永住することを決意、フランソワーズはフランスに帰ってエンディング。

冒頭、原爆投下地点の描写など、戦後まだ10年ほどしか経っていない頃の映画らしさもあり、いまみるとかなり異質の作品であるが、前出したように、いろんな意味で記念碑的な一本であることは確かです。


裸足の季節
水しぶきが飛び散るような弾けるカメラワークと映像、そして、巧みに組み立てられたストーリー構成の見事さに引き込まれる一本。とにかく映画が若々しくてみずみずしいのです。監督はデニズ・ガムゼ・エルギュベンです。
主人公ラーレが学校から帰る場面、人気のある先生が学校を辞めて去る最後の日に映画が始まる。先生の住所を聞いてメモに取るラーレ、そして待っている姉四人と学校を後にする。

中合流した男子生徒たちと海に入り騒ぐ少女たち。とにかく青春そのものというシーンから幕をあけるのです。カメラはアップで少女たちの笑顔を捉え、はしゃぐ姿を手持ちカメラで収めていく。その映像演出にまず目を惹かれます。

ところが、家に帰ると、彼女たちの面倒を見ている叔母からの厳しい叱責の言葉。男子学生と淫らなことをしていたと責めるのだ。そこへその息子がやってきてさらに彼女らを責め、閉じ込めるようになる。どうやら彼女たちの両親は10年前に亡くなり、叔母が引き取っていたようだ。

ある日、サッカーの試合を見に行くために、ラーレが主になって5人で出かける。途中、通りかかった青年の車に乗り、送迎バスに追いついてそのままサッカー場へ行くが、応援している姿がテレビに出てしまい、叔母にばれてしまう。

一昔前の姿と言っても度を越していると思える展開であるが、さらに彼女たちに半ば強制的で、儀式的な見合いの話が次々と舞い込み、姉二人は無理やり結婚させられていく。うち一人は交際していた彼氏ではあったものの、もう一人は、初対面で親同士が了解の上そのまま結婚式となるのだ。

なんとか逃げ出そうと思うラーレだが、どうにもうまくいかず、やがて三番目の姉にも見合いが来て結婚が決まる。しかし、彼女は次第に自暴自棄になり、過食となり、たまたま目に付いた男に体を与えたりする。そしてとうとう、自殺してしまうのだ。

やがて四番目の姉ヌルにも結婚の話が来た時、ラーレは兼ねてから計画していたことを実行する。車の運転を習っていて、叔父の車でイスタンブールに逃げるというものだった。

しかし、鉄格子までされた家から抜けることもできず、姉の結婚式の日になる。そこで、まんまと姉だけを家に残して叔母たちを締め出す。作った鉄格子で逆に入れなくなる叔父たち。ラーレとヌルはなんとか脱出、かつて知り合った青年にバス乗り場まで送ってもらい、そのままイスタンブールへ。そこには、冒頭で慕われていた先生が住んでいた。ラーレとヌルはその先生の家にたどり着き抱きしめられてエンディング。このあと彼女たちはどうなるかが余韻を残す。

クライマックスの脱出場面、造った鉄格子で入れなくなり捕まえられないという展開も面白いし、非常にスリリングに描かれている。それまでの流れも、一つには古い慣習という古びたものに縛られる少女たちの姿を描くが、その視点は。どこか、諦めに似た姿も見え隠れする。この国に住むものにはある程度の知識としてあるのだろう。この辺りの描き方もうまい。

少女たちを演じた五人がとにかく初々しいし、若さに溢れているために、かえって古い慣習との対峙が見事に映像になっている感じです。なかなかの秀作でした。