くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「白い帽子の女」「歌声にのった少年」「佳人」

kurawan2016-09-28

「白い帽子の女」
もったいぶった本来の物語がいつまでも物語の後ろに隠れていて、やっと垣間見えたかと思ったら、また大き隠されてしまう。非常に淡々とした作品ですが、心理ドラマとしては、ちょっとセンスを感じることもできる一本でした。監督はアンジェリーナ・ジョリー・ピットです。

一台の車が浜辺の町にやってくるシーンから映画が始まる。まるで、どこかで見たフランス映画の様相である。舞台はフランスのどこかという感じである。車に乗っているのは作家のローランドと妻のヴァネッサ。どこか二人の間には影というか溝が見える。その背後にあるものが終盤になるまで出さないから、もったいぶった展開が続く。

隣の部屋には新婚の夫婦のレアとフランソワがいる。ふとした偶然で隣の部屋を覗ける穴を見つけたヴァネッサは、いけないと知りつつ隣を覗く。レアたちはことあるごとにSEXをし、妊娠することを望んでいる。ローランドもその穴の存在を見つけ、二人で覗きながら語るようになる。いつの間にか、ローランドとヴァネッサもその溝が埋まっていくようになる。そして隣の夫婦とも仲良くなってくる。

ところが、いつの間にかまた溝が見え始める。どうやらヴァネッサは子供を流産し、そのショックから立ち直れないようである。アンジェリーナ・ジョーリーが終盤に非常に可愛らしく見えてくるのが実にうまいと思う。

ある日、ヴァネッサが部屋にいないので、何気なく隣を覗いたローランドはそこでフランソワに身を任せようとしているヴァネッサを発見、部屋に飛び込みフランソワを殴る。一方でフランソワもレアに真実を話し、新婚生活に亀裂らしきものが。しかしローランドがことの顛末を話し、なんとか取り繕う。

やがて小説は完成、ローランドたちは車に乗り再び街を離れる。いつの間にかヴァネッサものがローランドの腕に触れる。ハッピーエンドの兆候というラストシーンととればいいのだろうか。

アンジェリーナ・ジョリーは映画のセンスはあると思う。車で街に入ってきて車で出ていくという物語の組み立ては古臭いとはいえ、テンポはいい。ただ中心部分がちょっとグダグダと繰り返し、流れが一方に流れていかないのが実にまどろこしい。まるでゆらゆらと漂う波間に浮かぶ如しである。二時間あまりあるが、九十分くらいにまとめあげれば実に傑作になり得たかもしれない。退屈というより、めんどくさくなってくる。そんな映画だった。


「歌声にのった少年」
いい映画でした。テンポが抜群にいい。特に導入部の子供の頃のシーンが最高に弾んでいるし、そこから一気に大人のシーンに入ってからの落ち着いた展開から一気にクライマックスの畳み掛けるテンポが素晴らしい。大傑作とまで行かないまでも、ちょっとした佳作でした。監督はハニ・アブ・アサドです。

パレスチナガザ地区出身の実在の歌手ムハンマド・アッサーフの半生を描いた作品で、とってもみずみずしい作り方をしています。

子供達が何やら騒いでいる。姉ヌールと弟のムハンマドがお金を取られまいと走り抜け家に飛び込むところから映画が始まる。軽快なテンポでカットがくるくると変わる流れが実に心地よい。

ヌールは弟のムハンマドの歌声の才能を見抜き、なんとかカイロのオペラハウスで歌わせようとお金を貯めている。小金を稼ぐことに真剣になりようやく楽器を手に入れて、さらに稼ぐ準備ができたと思ったら、突然腎不全でヌールは倒れてしまう。とりあえず透析を始めたものの、間も無くして他界してしまう。

治療室で出会ったアムルなどの女友達や、楽器調達で騙された闇屋の男、ヌールに振られて音楽を止めて厳格な役人となった友人などのさりげない登場人物も後半の大人のシーンで生かすあたり見事な脚本になっています。


やがて、年月が経ち、ムハンマドは青年となり、タクシーの運転手をしながら大学に通っている。ところが彼は姉の面影の中、姉が弟に夢見ていた歌手になることを諦めず、アラブアイドルのコンテストに出るべきエジプトカイロへ旅立つ決意をする。しかし、ガザ地区で緊急ビザを取ることは難しく、結局偽造ビザで脱出。このくだりも、ほのぼのした人間ドラマが描けていて実にいい。

そして会場に着いたものの、チケットがなく、参加できない。途方に暮れているところへ、偶然ムハンマドの歌声を聴いた参加者がチケットを譲ってくれ、コンテストに参加する。そして、どんどん勝ち進み、最後の3人になるまでが後半の中心の話となる。

戦闘で荒廃していくガザ地区の人々の夢を一身に受けながら勝ち進むムハンマド、その重圧にパニック障害に陥るも、見事優勝する。優勝シーンは実際の映像となり映画は暗転する。

終盤、幼い頃の友達や姉の笑顔などが短いカットでフラッシュバックし一気にラストシーンに持ち込む畳み掛けもうまい。

前半の姉の死を妙なジメジメ感を通さずにさらっと駆け抜け後半につないだ構成も見事。非常にリズム感の良い一本でした。いい映画を見た感じです。


「佳人」
生まれつき小児麻痺で歩けない薄幸の美少女つぶらと幼馴染で献身的に尽くすしげるの純粋すぎる悲恋物語。城崎の風景も含め非常に画面が美しい秀作で、物語のピュアさもさることながら、つぶらを演じた芦川いづみがとにかく可憐である。監督は滝沢英輔です。

家の中から外を見るだけの薄幸の少女つぶらの場面から映画が始まる。彼女の傍にいつもよりそう幼馴染のしげるとの子供時代の物語から物語に入る。時は昭和の初め、第二次大戦が起こる少し前である。まだまだ封建的な世界であり、片端の人間への偏見も尋常ではない上に日常普通だった時代である。

やがて時が経ち、しげるは出征、激動の中、つぶらも人間的には良くない人物の嫁になる。

最後の最後に、つぶらは東京へ行くしげるに最後に会って自殺して終わるのだが、極端な標準語しか喋らないつぶらの悲しい人生がとにかく切ないし、画面が本当に美しいので、文芸大作という空気も漂うあたりの上品さが素晴らしい一本。

今や、このクオリティの画面を作れる人はいないのではないかとさえ思えるなかなかの作品でした。