くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アマデウス」(ディレクターズカット版)「ひと夏のファン

kurawan2016-07-12

アマデウス」(ディレクターズカット版)
30年ぶりくらいに見直した作品ですが、さすがに素晴らしい名作です。オープニング、自ら首を突き刺したサリエリのシーンから、一気に運び出され、サナトリウムに行きタイトル。そして神父との会話で、自らの過去を語り始める導入部は寒気がします。監督はミロス・フォアマン

天才と称されるアマデウスと出会ったサリエリは、いかに自分が凡人かを目の当たりにする。しかも、彼の品行を見るにつけ、神が選んだ才能ある人物に対する不信と、神への信頼が揺らいでいくにつけて、みるみる狂気に襲われていくサリエリのドラマティックな展開が見事なものです。

寒々とした景色の描き方、前半の華やかな舞台シーンに比べ、みるみる寂れたように彩りを失っていく後半部分の色彩演出も見事。

アマデウスを演じたトム・ハルスの存在感は、いまさら言うまでもなく突出しているが、一方のサリエリの迫力も半端ではない。これが演技というものだろうと思います。

敵であるかに見えたサリエリを、次第に信用していくアマデウスの心の変化。策略を施したはずが、いい方向に裏目裏目になり、かえってアマデウスを追い込んでいくスリリングなストーリー展開も素晴らしい。

映像、演技、脚本、演出、どれもが見事に一つのハーモニーを生み出していくという完成品の貫禄がこの映画にはあると思います。ディレクターズカット版になり20分ほどが付け加えられたことで、若干後半の一部が間延びしますが、それでも十分に見応えのある傑作ですね。やはり名作は不滅です。


「ひと夏のファンタジア」
夜空に打ち上げられた花火のような一瞬にきらめくひと夏の物語、とっても素敵な作品でした。こんなたわいのない物語をこれだけ感性豊かに描ける才能に拍手したいです。監督はチャン・ゴンジェです。

物語は同じ俳優で同じ奈良県五条の街を舞台に二つの物語が展開します。
第1章はモノクローム、韓国からロケ地調査にやってきた映画監督のテフンと通訳のミジョン、そして案内役のタケダの物語です。

フィックスで構えたカメラアングルでひたすら長回しにセリフを語る展開で、ドキュメンタリータッチのようなカットを繰り返します。古い町並みの残る五条市をさらに奥の篠原という寒村に舞台が移り、素朴な景色や懐かしい思い出を地元の老人などの口を通じて聞くテフンたちの姿。

取り残されたような小学校をたづねていき、タケダは幼い頃の初恋の相手も映った写真が廊下にかかっているのを見つける。テフンが教室に入ると、木琴を叩いている少女が振り返って「やっと来たの?」とつぶやく。

瞬間、旅館で目をさますテフン。外には花火が上がる。

物語は第2章へ。第2章はカラーになる。
韓国から日本に旅行でやってきたへジョンが観光案内所で説明を受けている。たまたまいた地元で農家を営むユウスケが彼女を案内して五条の街を回る。さりげない会話とフィックスのカメラの前で、長回しに展開する二人の物語。

翌日、篠原の村に行くということで車で案内するユウスケ。山奥の何もない素朴な村にたどり着き、寂れた小学校に行くと。第1章と同じ舞台である。

一通りの案内の後、夜、バーで飲みながらお互いの話をする二人。へジョンは明日韓国に帰るという、韓国には恋人がいるという。そして別れの場所で、今夜花火大会があるからとユウスケがへジョンを誘うが断られる。へジョンはユウスケに連絡先を伝える。しかしユウスケはへジョンを抱き寄せキスをする。

ユウスケは一人お祭りへ。旅館で一人横になるへジョン。ユウスケは一人花火が上がるのを見る。へジョンも、旅館から花火を見る。二人の間にさりげなく湧き上がった恋。この一瞬が素敵。

さりげない物語である。二つの話に共通する淡い恋物語が、素朴なカメラと会話の中で描かれる姿がとにかくピュアで素敵なのです。飾り気のない映像なのに気がつくと心に残っている。そんな作品でした。