くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ジェーン」「江戸川乱歩の陰獣」「男の顔は履歴書」

kurawan2016-10-26

「ジェーン」
特に秀でた作品ではないのですが、脚本の物語の処理が実に上手いので、最後まで間延びせずにしっかりと見ることができる。良い映画でした。監督はギャビン・オコナー、製作はナタリー・ポートマンです。

南北戦争の時代、一人の男ビルが撃たれて家に戻って来るところから映画が始まる。迎えたのは妻のジェーンである。夫のビルはならず者集団ビショップの一味だったが、ジェーンに惚れて組織から連れ出した。以来、ビショップにひっそり隠れ、付け狙われていたが、この日見つかって撃たれたのだ。ジェーンはかつての恋人ダンに助けを求めに行く。こうして物語の本編が始まる。

7年前の南北戦争当時、ジェーンには恋人のダンがいたが、ダンは南北戦争に出て生死がわからなくなった。そんな時ビルと知り合い、子供ができていまに至っていたのである。

ダンは戦争から帰ってジェーンを探したが、見つけた時はジェーンはビルの妻になっていたのだ。

間も無く襲って来るであろうビショップに備えるために、家の周りに仕掛けを作ったりするダンとジェーン。そして夜、ビショップが襲ってきてクライマックスになる。時にフラッシュバックを入れているが、実に的確で物語が混乱しないし、クライマックスまで余計なドラマを入れないので、物語がシンプルに展開する。

結局、銃撃の中でビルは死んでしまい、ダンとの間に出来た子供で、ビショップらに殺されたと思っていた娘も生きていて、ダンとジェーンはビショップたちを殺した賞金を手にカリフォルニアに発ってエンディング。

よく考え直せば、ビルがあまりにかわいそうと言えなくもないし、フラッシュバックでビルの人間性が描かれて、実にいい男なのだが、結局、元彼のダンとジェーンが一緒になるというラストはちょっと平凡。

一見、西部劇のような様相なので、ダンの存在を粋なヒーローでまとめてくれればもっと奥が深まった気がする。でも、丁寧に作られた良質の作品であり、見応えのある一本だったと思います。


江戸川乱歩の陰獣」
ローアングルと様式美の構図で美しくまとめられた映像が美しい作品ですが、二時間半の長尺の中に詰め込まれた物語にいまひとつテンポやキレがないので、時としてダラダラ感が見え隠れする一本だったと思います。監督は加藤泰です。

古典的なトリックで名を馳せる推理作家寒川が、殺人事件の推理にのめり込んで行く。そこに描かれる物語はまさに江戸川乱歩の伝奇的な世界観で、色彩を派手に利用した演出と、ローアングルから見上げるショット、物や人物の配置などに、加藤泰らしい美学がちりばめられています。

江戸川乱歩の世界観ゆえに、非常に妖艶で怪しい空気が全編を漂うのですが、いまひとつ踏み込んだ艶やかさがないのが残念。

犯人はおそらくこの夫人だろうと見えて来るのですが、時にエロスの世界があり、時に情炎の世界があり、時に不気味な恐怖感がある。それは脚本にも映像にも演出にも意識されている。しかし、美しさだけが勝ってしまって、美しさを利用した不気味さという匂いがいまひとつ漂って来ない。

確かに、駄作ではないし、クオリテイは見事なのですが、一級品として評価されるには力不足になった感のある映画でした。


「男の顔は履歴書」
予測のつかない展開とどこへ向かうかわからない物語に、途中からどんどんツッコミだらけで笑ってしまった。しかも差別発言だらけで、今では絶対作れないだろうし、とにかく二転三転というより前後の時間の流れもどれもこれもなんでもありの映画でした。まさに戦後二十年の頃のまだまだなんでもあり時代の一本でした。監督は加藤泰、主演は本物ヤクザの安藤昇です。

とにかく、戦後の混乱期、地元商店街の日本人と、三国人と蔑まれる朝鮮人たちの集団との抗争を描いています。そこの地主で開業医の男が主人公で、そこに何やら適当な展開が繰り返されて、抗争と喧嘩と暴力と人種争いが何度も繰り返される。

映画はクオリティは最低ながら、作ってしまえという迫力は満載で、突然7年後に飛んだかと思えば、突然あの頃はと遡ったり、一体あの看護婦とどうなったのかと思ったら、最後の最後で実はという展開があったり、何が何だか、笑うしかないのです。

これも映画産業華やかなりし時代の一本ですね。その意味ではレア作品でした。