くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「疾風スプリンター」「泪橋」「浪人街」「原子力戦争」

kurawan2017-01-09

「疾風スプリンター」
典型的な香港映画という感じで、どんどんストーリーが前に進み、アレヨアレヨとラストシーンに向かっていく様は圧倒されるものの、中身はない。物語は自転車レースの正解を背景に二人の青年と一人の女性の物語。例によって、友情恋愛、角質、挫折などが描かれていく。監督はダンテ・ラムである。

細かいカットとデジタル映像を駆使した縦横無尽カメラワークでスピード感あふれる物語に仕上がっている。

世界の自転車レースのレベルや格付けの説明の後、主人公となるチウ・ミンとチウ・ティエンが出会うところから物語が始まる。そして二人が練習をする中で一人の女性ホアンと出会う。前半はこの三人の恋の物語とライバルとしての友情が展開、やがて、それぞれのライバルジウォンの登場の物語が入って後半に流れるが、いつの間にかホアンの話が飛んでしまってラストを迎えるあたりが、さすがに香港映画である。

面白かったのですが、あまりにストーリーがどんどん飛び去っていくのでついていけないところもある。脚本の悪さとかいうと香港映画は評価できないのですが、独特の世界をテクニカルなカメラ映像で見せた面白さは評価できるでしょうかね。まぁ娯楽映画でした。


泪橋
これはいい映画ですね。唐十郎の脚本というのが見え隠れするシュールな表現も見受けられますが、黒木和雄監督らしい縦に抜いた遠近の構図と、木村威夫のさりげない美術の美しさが見事にコラボレートして、不思議な縁で知り合った男と女の物語が独特の映像で描かれていきます。

英語の百科事典をセールスしている主人公健一が泪橋の地元に帰ってくるところから映画が始まります。かつて、警察に追われ匿われた芝居好きの老人の家に転がり込むのですが、そこには同じく泪橋で拾われた一人の女千鶴がいた。

なにやら事情のありそうな千鶴と関係を持っていく健一は、千鶴の過去に次第に触れていく。千鶴の父親は戦時中、現地の少年を殺して高価なルビーを手に入れていて、それで作った指輪を千鶴に与えた。

千鶴の兄もまた千鶴を愛しているという構図、ルビーの赤で彩られる統一された色彩演出がみごとで、芝居好きの老人の家のさりげない芝居の小道具の数々や日本人形の使い方など非常に美しい。

嫉妬した千鶴の兄が千鶴を殺そうとし、それを助ける健一。兄がニワトリ小屋で千鶴を襲う場面が絶妙の配分で物語に組み入れられる様はうまいという他ない。

ラストは、港の端に立つ女の姿から人形に変わるオーバーラップのシュールな演出で締めくくり、赤い画面に飛ぶカモメの映像でエンディングとなる。うまい。これが感性が生み出す映像感覚でしょうね。良かった


「浪人街」(黒木和雄監督版)
何十年ぶりかで見直した作品ですが、やはり、オリジナルが素晴らしいこともあってか、ストーリー展開に無駄がない。しかも、独特の娯楽時代劇の世界はオリジナリティあふれると呼べる傑作ですね。

時は幕末、とある街に巣食う三人の浪人たちの姿を通じて、混沌としてきた武士社会の姿を、そこに起こった夜鷹の辻斬り事件を中心に展開する市井の人々の物語として描いていく。

宮川一夫の協力ゆえに時に赤や青の色彩が画面の中に組み入れられ、豪快なチャンバラシーンをクライマックスに盛り込みながら、素朴すぎる物語で見せる時代劇の姿は、本当にうまいとしか言いようがありません。

オリジナルの大傑作があるので、オリジナル作品としては評価できないかもしれませんが、ラストで、画面に突然雨が降ってきてエンディングさせる手腕は実に面白い。これが映画ですね。


原子力戦争」
テーマ性としては傑作と呼べる一本ですが、さすがに社会テーマでここまで描かれると重いですね。福島第1原発の放射漏れ事故をテーマにして1978年に製作された作品である。監督は黒木和雄

一人のヤクザが自分の愛人を探して福島へやってくる。ところがその女は地元の原子力発電所の事務員と心中事件を起こして死んでいた。その真相を調べるうちに、実は発電所内で放射能漏洩事故が起こったのではないかという事件が見えてくるという内容である。

後々2011年の事件を予測したような作品であるが、映画づくりとしてはひたすらミステリー風に原発内の事故が隠蔽されていく様が描かれるのは、かなり重苦しい。いつもの黒木和雄作品のような映像演出は見られなく、ただ、ストレートな演出でドラマ仕立てにしていく。

結局、主人公のやくざも殺されてしまい、真相を追いかけていた記者も仕事を失うのを恐れ、手を引いてしまたという結末。被害になった女の妹がトンネルの彼方に歩いて行ってエンディングである。作品としては他の黒木作品に比べてレベルは低いように思えますが、社会問題提示としては秀作ではなかったかと思います。