くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「彷徨える河」「あるマラソンランナーの記録」「スリ」

kurawan2017-01-12

「彷徨える河」
正直眠たい映画でした。モノクローム映像でジャングルを美しく捉え、素朴な原住民の姿と、探検家の物語なのですが、淡々と進んで行く流れはまさにゆっくりとした河の流れそのままで、劇的な展開よりも、不可思議なエピソードの連続に、次第に陶酔感に包まれてしまう。監督はシーロ・ゲーラという人です。

一人の原住民の男性カラマカテが川辺でしゃがんでいる。そこに年老いて病で弱った探検家のテオが道案内の男と共に現れる。カラマカテはテオを助けるにはヤクルナという薬草がいるといい、その薬草を求め、ジャングルを進み始める。

時が経ち、若い探検家エバンがテオが書いた本を手にカラマカテのところにやってくる。カラマカテは、一人で生活をするうちに記憶もすべて消えてしまっているという。

こうして現代の物語と過去の物語が、若いカラマカテと年老いたカラマカテを共通点に描かれて行く。

コロンビア人の白人がやってきて現地の人々が不幸にあった現実を所々に挿入しながら、素朴ながら、昔からの風習を守る人々と、白人によってもたらされた俗世界を身につけて生活する人々の姿を描いて行く。

河の流れに沿って奥へ奥へと進むだけという展開なので、最初は物珍しく見ているのですが、次第にしんどくなってくる。映像は美しいし、カメラアングルもしっかりしてるので、クオリティの高い秀作ですが、終盤は少し眠くなってしまいました。

ラストは、最後の一本になったヤクルナの木のところにたどり着き、いつの間にか姿を消したカラマカテの名を呼ぶエバンのカットでエンディング。

質が高すぎて退屈というレベルの一本で、作品の空気は独特のオリジナリティがあります。なかなかでしたが、しんどかった。


「あるマラソンランナーの記録」
東京オリンピック開催直前のマラソンランナーの君原健二選手の姿を追いかけた黒木和雄監督の傑作ドキュメンタリーです。

調子を崩し、休みながらもひたすら練習をする姿を、カメラが密着するようなアングルで捉えて行く様は、息遣いまで伝わってきて、見ている私たちが息苦しくなってしまいます。

人間に密着するという視点を徹底したカメラワークで捉える。これがドキュメンタリーというものだと言わんばかりの作品でした。


「スリ」(黒木和雄監督版)
これは良かった。物語の展開といい、カメラの使い方といい、ラストの処理といい抜群。体調不良後の復帰第1作目の黒木和雄監督作品らしいが、頭が下がるほど見事でした。

アル中のスリ、主人公海藤が電車内で仕事をしようとしている場面から映画が始まる。手が震え、上手くいかないところへ長年彼を見てきた刑事の矢尾が近づく。

捕まえるでもなく、まるで長年の親友のように接する矢尾。この二人の構図を中心に、海藤が娘のように可愛がるレイ、弟子になって転がり込んでくる一樹らと繰り広げる人間ドラマは、犯罪者を扱っているにもかかわらず、妙に人間味のある作品に仕上がっているのは見事なものです。

淡々と繰り返す様々なエピソードと付かず離れず見えてくる 何気ないラブストーリーも素朴なほどに温かみがある。

終盤、なぜか海藤に恨みのあるレイの兄に手を潰された海藤が、我慢できずホームに立つ客にスリをしようとするが、激痛で失敗。ふと見ると向かいに矢尾が立っている。

海藤に振られたかのようにそっけなくされた鈴子が海藤の家の屋上で立つ姿でエンディング。このラストもとっても素敵なのです。

何気ない話なのに、いつの間にかスクリーンにのめり込んでしまうほど無駄がない。

映画センスのある人が映画を作ると、こうなるんだなと感心してしまうほどの傑作でした。良かった。