くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「初恋のきた道」「もう頬杖はつかない」「四季・奈津子」

kurawan2017-01-27

初恋のきた道
何十年ぶりかで見直したけど、やっぱりいいですね。素朴で純粋な初恋物語がなんの混じりっ気もなく描かれる様はもうたまりません。とにかく画面が美しいし、チャン・ツィーが可愛らしい。それだけでも見た甲斐があるというものですが、そこに卓越した映像作りが素晴らしいのだから、もう言うことなしです。監督はチャン・イーモウ、素晴らしい一本でした。

モノクロームの画面で映画が始まり、父の死の知らせを受けて街から一人の青年が帰ってくる。年老いた母は、街の病院の霊安所にある父の遺体を昔の風習通り担いで帰って欲しいと言う。そして息子は若い日の父と母の初恋の物語に想いを馳せて行く。

画面は鮮やかなカラーに変わり、緑が茂る山々を背景に真っ赤な服のチャン・ツィーが駆け抜ける。白樺の紅葉、淡いイエローオーカーの色彩に淡いピンクが入り混じる画面作りがとにかく目がさめるほど美しいし、その画面に微笑むチャン・ツィーのクリクリした目と笑顔がたまらなく愛くるしい。

冬の真っ白な吹雪の中で浮き上がるピンクの服や、村人たちが身につける黄色や青の美しい着物姿、決してイケメンではないが、どこか爽やかな若き日の父の姿など、どれも完成されたチャン・イーモウの世界である。

会いたくても会えない、声を聞きたくても聞けない、そんなもどかしい若き日の母の姿を、わずかな台詞だけで見せるチャン・ツィーの演技も抜群。

そして、物語は現代となり、モノクロームで、葬儀の場面から、母が再び若き日を思い出してカラーになるシーンでエンディング。
オーバーラップでかぶる若き母の姿と現代のカットが抜群の余韻を残す。
やはり名作とはこういうものなのだろうね素晴らしいです。


「もう頬杖はつかない」
これも何十年ぶりかの見直し。ほとんど覚えてない作品でしたが、なるほど、見直して見てわかりました。今見れば、当時の時代色があってこその映画であり、しかも、桃井かほりの個性で引っ張って行く感じの作品だった故でしょう。監督は東陽一です。

女子大生の主人公は、男と同棲しているものの、特に恋とか愛とかはない。ただゆきずりのままに生活をしている。そんなおり、昔の男が戻って来て、体を合わせたものの、妊娠してしまう。しかし、男は連絡もつかず、結局、独断で中絶。

出てくる男それぞれがどうしようもないし、対する主人公としての女もこれという目標も生き様も見えない。いわゆる、当時シラケ世代というのが流行りになったキャラクターである。

淡々と描かれる甘たるいような殺伐さが特徴の作品で、今見ればそれほど感じ入る何かが見えるわけでもなかった。時代色ですね。桃井かほりはあまり好みではない女優でしたし、今回も、作品の出来合えはなかなかながら、好みの映画ではなかった。


「四季・奈津子」
初めて見た時はそれほどに思いませんでしたが、これはいい映画でした。いや、素敵な映画でした。原作は五木寛之、監督は東陽一です。

疾走する真っ赤な車のシーン、乗っているには主人公の奈津子。妹の布由子はうつ病で施設に入っていて、彼女に会うためにやって来た。

姉の波留子は旧家に嫁いだが、布由子のことが知られ、実家に戻される。三女の亜紀子は学生運動などに奔走している。物語は、自由奔放に自分の生き方を追求していこうと前向きに進む奈津子を通じて、様々な男性を登場させながら描いて行く。

とにかく、奈津子を演じた烏丸せつこの裸体がとにかく美しくて魅力的で、それが彼女の生き方を体現して行くかのようにみずみずしく光る。

布由子が行きたいというお芝居を観に行って知り合ったカメラマンにヌードを頼み、そのまま東京へ行った奈津子は、そこでさらに新たな出会いを繰り返し、恋人と別れ、最後は女優デビューしてエンディング。

とにかく、主人公が前向きに生きる姿にどんどん引き込まれる作品で、四人の姉妹のそれぞれの存在感も、わずかしかないにもかかわらず明確に描き分けられているのがいい。そしてその全てが奈津子の生き方に集約されて行く展開のうまさは素晴らしいです。

やはりこれは大人になってわかる映画なのでしょうね。いい映画でした。