「SHADOW影武者」
反逆の繰り返しと権力者の入れ替わりの連続という中国の歴史を縮図にしたような作品でした。荒唐無稽な武器が登場したり、奇抜な戦略シーンなど典型的な中国武侠映画ですが、どこかスケールがこじんまりしているように見えるのは、「三国志」の壮大なドラマの一部ゆえでしょうか。監督はチャン・イーモウ。
ペイという国が隣国炎の国に領土を奪われて20年、現在のペイ国の王は炎との休戦同盟に甘んじていたが、ここに都督は勝手に炎国が支配する州を統括する楊に戦いを申し込み二国は危機に陥る。
実はこの都督は影武者で、本当の都督は瀕死の重傷で地下深くにいた。ペイ国の王はこの危機を乗り切るため妹を楊の息子の側室に迎えるという申し出を受けることにする。
かねてより、王の後ろ向きな執政に不満を持っていた重臣たちは密かに楊の支配する地を奪還するべき画策を始める。楊は槍の名手で誰も太刀打ちできないが、都督の妻シャオアイの提案による傘の武器により勝機をつかまんと軍勢を率いて楊の土地へ向かう。
そして、相打ちに近いながらもその地を奪還し、影武者の都督は戻ってくるが、自由を約束されて故郷へ行ってみれば母は何者かに殺されていた。王の元に戻れば、実は黒幕は本物の都督で、王座を狙っていた。それを見破って王は本物の都督を倒そうとするが返り討ちにあい、王は重傷を負う。しかしそんな有様を見抜いた影武者の都督は王も本物の都督も殺して、刺客の仕業として家来たちに大音声して映画は終わる。
チャン・イーモウらしいバトルシーンが登場しますが、CG頼みがかえって映画を小さくした気がします。面白くないわけではないのですが、妻役のスン・リーを含め、役者の層が薄っぺらくて、どうも迫力に欠ける作品になった気がします。
「アンダー・ユア・ベッド」
それほど期待していなかったけれど、案外見ごたえのある映画でした。若い人はこれくらいの映画を作らないといけないと思います。原作より脚本がいいのでしょう。物語の構成とタイミングが実によく組み合わされていて、どんどん引き込まれました。監督は安里麻里。
30歳になった主人公三井が、ある家のベッドの下に隠れているショットから映画は幕を開ける。そして時は4ヶ月前に戻る。彼は幼い頃からその存在を無視されてきて生きてきた。しかし大学の時にたった一度、一人の女性千尋から名前を呼ばれたことがきっかけで、彼女を慕っていた。
一時、彼女を忘れかけたが最近、彼女を探そうと決めて興信所で調べ、彼女が今は人妻となっていることを突き止め、その生活が不幸であることを見るに及んで、彼女の家のそばに熱帯魚屋を開業する。その店に彼女がたまたまやってきてグッピーを飼うことになり、三井は彼女の家に届けた時に合鍵を作った。
そして、何度か忍び込んでいたが、夫のDVを見かね、ベッドの下に潜り込んだのである。物語は千尋の家を監視して、忍び込み、盗聴する三井の姿とその独り言を中心に展開し、一度はその夫をスタンガンで倒そうと忍び込んで待つが、実行できず。とうとう彼女は家を出る。しかし、夫に見つかり、再び暴力を振るわれそうになるところで三井がスタンガンで倒し、首を絞めて殺す。しかし、千尋は彼が何者で誰なのかわからなかった。
派出所へ自首した三井のところに千尋が駆けつけ、かつて一度だけコーヒーを飲んだ彼を思い出し、「三井くん」と叫ぶ。映画はここで終わるが、大学時代に三井が千尋とコーヒーを飲み、グッピーをプレゼントして、幸せな日々を語るが、全てが妄想だったと明らかになるラストもうまい。
次第に、展開の中に矛盾が見え始め、このまま、三井は去っていくのかと思えば、こちらの思惑を嘲笑うような展開へ進んでいく。次々と見る側の意思を覆しながらのラストシーンは鮮やかである。
全体の空気感は陰気な映画ですが、どこかバイタリティのようなものが感じられる作品で、見ごたえ十分でした。
「ラスト・ムービースター」
バート・レイノルズ最後の主演作、といっても彼のファンというわけではないのですが見に行きました。かつての大スターの老年を描いているというまさにリアルに近い作品ですが、バート・レイノルズの若き日の映像を巧みに組み合わせての画面に普通に楽しめました。監督はアダム・リフキン。
かつてハリウッドの大スターだったヴィックの飼い犬が老齢で安楽死させるところから映画は幕を開ける。一人ぼっちになり大邸宅に戻ったヴィックに、映画祭の招待状が届く。功労賞と回顧上映のイベントに出て欲しいという案内だった。一旦は断るが親友のソニーに勧められ出かけることにする。
ところが着いてみると映画祭とは名ばかりでしょぼい迎えの車にいかにも蓮っ葉な女の運転手がやって来る。しかも泊まるホテルもモーテルのようなところで会場もただのバーだった。
ヘソを曲げるヴィックは、運転手の女リルにわがままを言って、かつての自分の足跡を辿り始める。グランドホテルに顔パスで泊まり、唯一愛した女性を老人ホームに訪ねる。そんな姿を見ているうちにリルも次第に生きることを楽しむことを思い出す。
映画祭の主催者は、ヘソを曲げたヴィックが戻るはずもないだろうと功労賞授与式をするが、そこにヴィックが駆けつけ、自分もまた生きることを思い出したとスピーチする。
自宅に戻り、新しい犬を飼い、ソニーとも語り合うシーンで映画は終わる。たわいのない作品ですが、この歳になるとこういう映画に胸が熱くなります。