「ごん」
ごんぎつねのストップモーションアニメ。繊細な表現で、今までタブーとされてきた水とススキを描くことにチャレンジ。懐かしい童話の世界観と優れたテクニックに引き込まれる三十分でした。監督は八代健志。
物語は今さらいうまでもないので書かないとして、ごんぎつねが時に二本足になったり、人間的な表情を見せるのが素敵な映画でした。
「脅迫者」
典型的なフィルムノワールの展開で、シンプルそのもののストーリーを楽しめる一本。監督はブレンティン・ウィンダスト。
殺人犯メンドゥーサが逮捕されたが彼の犯行を証言するリコを搬送してくるところから映画は始まる。必要以上に怯えるリコを宥めながら明日の裁判に備える検事ファーガソンは自室でリコを匿うが、リコは自ら窓から脱出を試み落ちて死んでしまう。
ファーガソンらは仕方なく事件を最初から検証して行くというのが本編となる。そして事件の発端から、新たな証人を見つける糸口を探し、一人の女性の存在を知るが、メンドゥーサの手下たちも彼女を消そうと追っていた。ファーガソンらは巧みに彼女に近づき、間一髪で彼女をを確保して映画は終わる。
ラストのファーガソンが仕掛けた罠があっさり敵側に見破られ、間一髪、ファーガソンの機転で彼女を確保する下りは面白いが、それほど抜きんでた仕上がりでもない。まあ、中レベルのフィルムノワールでした。
「ラインの処女号」
導入部をもう少しスピーディにしたら映画が締まった気がしますが、全体になかなか面白いサスペンスに仕上がっていました。監督はジル・グランジェ。
ラインの処女号というライン川を降る貨物船に一人の男がストラスブールまで乗せて欲しいとやってくるところから映画は始まる。船の船長は一旦断るがたまたま荷役夫が怪我をして臨時で乗り込むことになる。この男は本名はジャックといってこの船会社の元社長だが七年間行方不明で、妻は若いラダという男と結婚している。ジャックはストラスブールにある会社に乗り込むつもりだった。
この船にはピエトロという船員が乗っていたが彼は何やら不法なことをコソコソしていた上に、ラダともつながっていた。ストラスブールについたジャックは元妻のところに行くが、元妻とラダはジャックを殺そうとする。会社を売り払い金を手にしようとしていたのだ。しかし、度胸もなく何度も未遂。そんなジャックに味方したのが会社の秘書のアナと船長の娘マリアだった。
ジャックは元妻の邸宅に乗り込み、ラダがただ金目当てだと知り、口論になるも翌朝出て行くように言い渡して邸をさる。ところがラダが何者かに殺され、ジャックに疑いがかかる。ジャックとマリア、アナは、ことの真相を求め、また駆けつけた警部も別の犯人を疑う。
真犯人はピエトロだった。最後港に追い詰められたピエトロは、桟橋から落ちて死んでしまい映画は終わるが、よく考えるとあちこちに無理のある脚本になっている。そこを勢いで突っ走るので単純に楽しんでしまう。これがフィルムノワールの魅力の一つでもありますね。
「霧の中の少女」
これは面白い。典型的な北欧サスペンスで、二転三転して行くうちに真実が分からなくなってしまうのですが、どんどん映画に引き込まれていきます。しかも映像もカメラワークも抜群で、原作者自ら監督をしたというけれど、見事な出来栄えになっていました。原作、監督はドナート・カリシ。
美しいイルミネーションの施された家が写されて、誰かがそこから出てくる場面から映画は始まり、カットが変わると、精神科医のフローレスのところに夜中に電話が入る。フローレスが治療室に入るとまもなくしてやってきたのはヴォーゲル警部。胸元に血の跡があり、フローレスはヴォーゲル警部と話を始める。
時が少し遡り、雪深いアヴェショーの村、アンナ・ルーという一人の少女が行方不明になる。捜査に派遣されたのは、かつてロメオという連続爆破犯を逮捕したものの結局無罪が判明、その時のマスコミを使った派手な捜査と証拠捏造を疑わせる強硬な手段が叩かれたヴォーゲル警部だった。
警部は、当初から誘拐と断定、マスコミに大々的に情報を流し、捜査の規模を広げて行く。もともと閑静な村で、自主団体のような宗教組織で結束された村は、一気に騒々しい世界に変貌、被害者家族にもマスコミの取材が押し寄せる。
場面が変わり、半年前にここに越してきた教師のマルティーニの家族は、娘のモニカの反抗期で荒んだ毎日になっている。ある時、たまたまガソリンスタンドで、マルティーニの車が誘拐事件現場に頻繁に見かけられたという映像が流れ、一転してマルティーニは容疑者としてマスコミが殺到し始める。
ヴォーゲル警部は次第次第にマルティーニを追い詰め始める一方、アンナが残した日記を手に入れるが、それは明らかに家族に読ませるためのもので、本物は別にあると判断する。そして、追い詰められて行くマルティーニの前に、マルティーニの血痕のついたアンナのリュックが見つかり、マルティーニは逮捕される。しかし、血痕は、マルティーニがヴォーゲル警部に呼び出された時、怪我をした手でテーブルを触れた時の血をヴォーゲル警部が捏造したものだった。
こうしてマルティーニは逮捕されるが、ヴォーゲル警部の元に匿名のメールが頻繁に届く。それはマルティーニは真犯人ではないというものだった。ヴォーゲル警部はその送り主を訪ねると、霧の男を追跡取材している老記者ベアトリスだった。彼女に言わせれば、30年前から起こっている少女誘拐事件の犯人霧の男こそが今回の真犯人だと告げる。そしてアンナの真実の日記をヴォーゲル警部に渡す。
ヴォーゲル警部はその日記の中に入っていたヴォーゲル警部宛の封書の写真のところに行き、そこでビデオテープを発見する。そのテープには、アンナが殺害されたベッドの様子が写っていた。ヴォーゲル警部へその場所へ行き、部屋に入り確信した時点で、自分の過ちを知り、テープを無茶苦茶にしようとしたところへ、記者がやってきて警部は槍玉にあげられてしまう。全て、仕掛けられたものだった。
結局、マルティーニは無罪釈放され、家庭も元どおりになった上に、被害者として祭り上げられて行く。と描いたところで、フローレス医師の部屋。ヴォーゲル警部は、ことの真相を全て語り出し、何もかもが自分の推理通りで、マルティーニこそが犯人だと確証、自ら彼を殺害したと告げる。冒頭の、イルミネーションの家から出てきた人物はアンナ・ルーで、彼女は猫を探しているというマルティーニに誘拐拉致され最後は殺されたのが描写される。
語り終えて、ヴォーゲル警部は警官に逮捕されて行くが、フローレスが所々に語っていた、ロメオが犯人扱いされたストレスで、心筋梗塞を起こしていたという伏線に、ラストでフローレス医師も同じ症状を見せる映像がかぶる。
映画はここで終わるが、では、ヴォーゲル警部は妄想で、精神異常だったのか、実はロメオの復讐にあったのか、実はマルティーニの巧妙な犯罪だったのか、全てが混沌として終わる。
ミニチュアの村のカットや、イルミネーションに飾られる家のショット、移動カメラで俯瞰で撮る意味ありげな演出など、映像面もなかなかで、少々脚本の整理が仕上がり足りないために、どれもこれもになって、ちょっと混乱するところもあるものの、見事な出来栄えだと思います。面白かった。