「ノー・エスケープ 自由への国境」
娯楽映画の作り方の基本のような秀作。とにかくオープニングから素直に面白いなと引き込まれる感覚にとらわれてしまいます。広大に広がる荒野に朝日がゆっくりと登ってくるところから画面が始まる。一台のトラックが砂漠を走ってきてど真ん中で立ち往生する。遠景で捉えるこのオープニングがまず素晴らしい。この後実にシンプルな展開でスリルとサスペンスが殆ど台詞なしで展開するのだが、まさにスティーブン・スピルバーグ監督の傑作「激突」を思わせる。
監督は巨匠アルフォンソ・キュアロンの息子ホナス・キュアロン。
砂漠で立ち往生したトラックから出てきたのは、メキシコからアメリカに不法入国しようとするモイセスらの集団で、トラックが壊れ仕方なく歩いて国境を越える。
ここに、一人のハンターが乗ったトラックが保安官とすれ違うエピソードが挿入。ハンターはこのあたりでうさぎを撃っているようですあるが隣に乗っているのは猟犬というより獰猛なシェパード犬である。このわずかな紹介シーンが実に効果的でワクワクさせてくれる。
不法入国者はというと、先を急ぐ先頭集団に遅れたモイセスらは、かなたに一台のトラックを見つける。このトラックこそがさっきのハンターで、実は不法入国してくる人々を撃ち殺していたのだ。慌ててモイセスらは引き返し逃げ始めるが、犬にみつかり追跡され始める。
こうして物語が本編へ進む。なんともシンプルそのもので、ただの逃亡劇だが、この犬がものすごい勢いで追いかけてきて、一人また一人と咬み殺すスピード感あふれるカメラが実にいいし、ものすごい遠距離でも着実に仕留めるハンターの銃の不気味さがさらにサスペンスを生む。
そして、最後の二人になったモイセスらだが、モイセスが車の整備工だという導入部のエピソードを生かしてハンターの車を盗むが、遠距離から狙撃され、モイセスの相方の女が重傷を負う。女が怪我を負ったため、一人で逃亡、ハンターを待ち伏せて最後の決戦となる。犬を照明弾で殺し、岩場で、ハンターを突き落として重傷を負わせ、置き去りにして、モイゼスは置いてきた女を抱えてハイウェイへと歩いて行ってエンディング。
うまい、ただそれだけである。アイデアの勝利というべき娯楽映画の秀作。本当に面白かった。
「フリー・ファイヤー」
ワンシチュエーションで描く個性的なアクション映画の佳作。作り方次第でこんなに簡単に映画が作れるかと思わせる一本で、アレヨアレヨと楽しませてくれました。監督はベン・ウィートリー。
1970年代のボストンで、二組のギャングが銃の取引である倉庫に集まってくる。最初から今にも爆発しそうな緊張感の中の取引で、一触即発のシチュエーションが展開するのだが、ちょっとしたことで殴り合いになる二人が出てくる。さらについ一人が銃で撃ち殺したことから、どんどんお互いのいがみ合いが溝を深めていく。
後は、ひたすら銃の打ち合いの連続、殺し合いの連続が展開。カメラはただそれだけを追いかけていく。背後に流れるあまりにゆっくりしたジョン・デンバーの曲などが独特の空気感を作り出し、ハイテンポなはずなのに緩やかなリズムがアンバランスな状況を生み出していく。
結局、一人勝ち状態になるが、勝ち誇った女性ジャスティンが金を持って出て行こうとするが外には警官が集まっていてエンディング。ラストのジャスティンのクローズアップがなんとも映画的で最高。
爽快そのものというわけではないが、これほどまで撃ち合いと殺し合いをワンシチュエーションで描いていく面白さは、映画というものの無限のアイデアの可能性を見せてくれます。面白い一本でした。
「カフェ・ソサエティ」
ジャズに乗せて送るちょっとレトロでノスタルジックな物語。古き華やかなりしハリウッドの夢のような世界で展開するファンタジックな恋の物語はウディ・アレンファンにはたまらないところでしょうが、今回はどこかファンタジックな彩りが物足りない感じでした。
ハリウッドで働くことを夢見て、叔父で実力者であるフィルを尋ねてきたボビーの姿から物語が幕を開ける。例によってウィットに富んだ機関銃のようなセリフの数々と、甘ったるいジャズのメロディで語られる。
ボビーはフィルの秘書ヴォニーと親密になり、やがて恋に落ちるが、彼女には思いもよらない恋人フィルがいた。
華やかな社交界(カフェ・ソサエティ)に身を置くことになったボビーはやがてラウンジのオーナーになっていく。そして新しい恋人ヴェロニカと結婚、ハリウッドでの華麗な生活に身を置くことになって映画は終わる。
ハリウッド黄金時代を背景に懐かしい香りのする恋の物語を中心に展開するラブコメディはまさにウディ・アレンの世界観であるが、ちょっと魅了されるほどの魅力がちょっと今回の作品は足りなかった気がします。