くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「追憶」「帝一の國」

kurawan2017-05-09

「追憶」(降旗康夫監督版)
物語の構成というのはこうやって書くものだと言わんばかりの脚本ですが、妙なところがくどく、描くべき部分が適当さがあるというのは流石にこのレベルの人の作にしては、がっかりという一本。ただ、淡々と進むストーリーながら、描くべきところはしっかりと掘り下げられているのは熟練技の降旗康夫監督の演出の手腕でしょうね。若干鼻についたのは木村大作のこれ見よがしのカメラでしょうか。

千住明の仰々しいテーマ曲と、これが木村大作だと言わんばかりの夕日の景色でタイトルが始まる。ここまでしなくてもと思うが、本編に入ってなりをひそめるので許しておこう。

一人の女涼子が男に抱かれているシーンから物語が始まる。
25年前富山。いかにもやくざ者という男が立ち上がり階下に降りると、三人の男の子。この物語の主人公篤、啓太、悟である。何かにつけ暴れるこのやくざ者の男を三人の子供が殺害するシーンがこの後展開。子供達のした事をかばう涼子、そして涼子を愛する純情な男光男のシーンへ。

25年が経ち、篤は刑事になっている。今日も事件の現場で子供を暴力で殺した犯人を逮捕したのだ。つい感情的に犯人に突っかかってしまい、上司に怒られる篤。自分の母親が自分に適当で、男ばかり作っているという背景が過去にあったというのに憤りを覚えたというのだが、非常に雑に流した背景描写は残念です。


ここに、ガラス屋をしているものの経営が苦しく、金の工面に富山に向かおうとする悟がいる。

富山で土建業を営み、妻のお腹も大きく順風満帆な啓太がいる。

三人の今を描く描写が若干くどい気がするし、それぞれの背景の描写はちょっと雑と言えなくもない。もう少し丁寧に背景を描いてもよかったのではないかと思うのだが、ここはさらりと流すのは思い切った省略と取れば納得するものでもある。

ある日、篤がラーメンを食べていると、メンマを残す姿に一人の男が声をかける。悟である。25年ぶりの再会に、酒を飲み別れるのだが、翌日富山で悟が殺される。その捜査に篤が富山に行き、そこで啓太に再会する。こうして物語は核心へ進む。

なかなか犯人像が見えてこない捜査陣という展開がこの後続くが、篤が悟と会っていたと見つかるまでがえらくトロいし、悟が啓太に金を借りに行ったとわかるまでがみょうにまどろこしい。サスペンス映画ならこの辺りはもっと畳み掛けてしかるべきだろうと思うが、ここを間延びさせて、あくまで、啓太たちが犯した25年前の事件とそれに絡む涼子を守るという三人の動機付けを描こうとしたのだろうが、これが実に弱い。

やがて啓太に捜査陣の目が行き、篤が悟と会っていたことも親しい同僚にわかり、啓太をマークする刑事の前で篤は啓太に接触、と、啓太の妻が急変し、救急病院へ。篤はてっきり何かの原因で悟を殺したのではという啓太を疑うも、真犯人が捕まったという連絡があっさり入りハッピーエンドへ向かう。いやぁ、適当すぎるやろ。
もうちょっとドラマ性をしっかりと掘り下げてのち、あっさり切り上げるべきと思うのですが。

ちょっと、この適当感はなんだという感じで、この後、篤と啓太の懐かしい思い出話が描かれて映画は大団円を迎える。そして千住明の曲と夕日の画面。

確かに、長さを感じさせないが、所詮100分程度の作品なのだから当然という感覚で見終わった。確かにそこそこにクオリティは維持しているものの、これだけのスタッフとこれだけの芸達者が入って、この程度ではいけないですね。


帝一の國
全く期待していなかったけど、傑作に出会ってしまった。めちゃくちゃ良かった

テンポといい、物語の展開の妙味といい、絶品の出来栄えに拍手。コミックの平凡な実写版と侮っていた自分がバカでしたという一本。最高に楽しいし感動してしまいました。監督は永井聡です。

原作を読んでいないので、物語が原作通りなのかはともかく、おそらく脚本のいずみ吉絋がうまいのだろう。

総理大臣になる事を人生の目標にしている主人公赤場帝一の一人台詞により、物語の骨子というか前提が描かれていく。

今時の映画らしくデジタル処理を施したコミカルなカットが繰り返され、一見薄っぺらいかのように流れていく物語がみるみる中身が深くなってスリリングになっていくのが、生徒会選挙が始まる半年後からである。

三年生で自分が生徒会長になるべく、その前提として次期生徒会長の有力候補につき、いずれ自分が立候補いう段階になった時点で、有利になるべく選挙参謀として大活躍するというのが物語の本編である。

ライバルである東郷菊馬との確執よりも、自分が付いている立候補者を有利にさせるべくあの手この手と手練手管の数々がものすごくサスペンスフルで面白い。

しかも、大鷹弾という、硬派で一昔前のスポ根劇画に出てきそうな人物が物語のスパイスになり、ストーリーに厚みが増してくるあたりの組み立てが実にうまいのだ。

クライマックスは自分が応援している先輩の生徒会戦なのだが、そこで一旦クライマックスを迎え、さらに、もう一歩自分の生徒会戦が大団円となる。

それまでの伏線を全て生かして最後の最後にラストシーンで大鷹弾が生徒会長となる。そして、自分の本当の希望だったピアノをめいいっぱい弾くというここまでの伏線で感動させるとともに、さらに国会議事堂の前で、自分の野望は捨てていないというキメが実に爽快。

菊馬ともに帝一の父親同士のやりとりや、終盤に帝一の父が捕まり、自分の生徒会戦の時に出所したら総理大臣が迎えにきていて、さらにその後を予感させる余韻の面白さが実に練り込まれていて最後まで手を抜いていない脚本の面白さに脱帽してしまう一本でした。いやぁ、こんな映画を作って見たいです。