「ネルーダ 大いなる愛の逃亡者」
不思議な展開で進んでいく何処か心象ドラマのような映像がちょっとシュールで面白い。監督はパブロ・ラライン。
ノーベル賞を受賞したチリの英雄パブロ・ネルーダのパーティ会場。なぜかトイレまである不思議な空間で普通に談笑する人々。
共産党員のネルーダに大統領は逮捕の命令を出す。そしてその命令はペルショノーという警部に下る。
物語はこの2人の追いつ追われつのすれ違い劇で展開していく。背後にペルショノーのつぶやきで語るネルーダの詩の数々が不思議な空気を作り出すのだが、逆に解説のような効果にもなり、やや映像としての退屈さに繋がるところもある。
結局2人は相見えることなく、最後にネルーダの目の前まで迫ったペルショノーだが、仲間に裏切られ死んでしまう。
リアルな映像というより、どこか心象風景のような感覚にとらわれる映画で、そのオリジナリティが結構面白かった。
「オリエント急行殺人事件」(ケネス・ブラナー監督版)
シドニー・ルメット監督の名作があるのでどうしても比べてしまう。もちろん物語は大きく変わることもないし、犯人も動機もエピローグも変わらない。ただ、人間ドラマに重点を置いたルメット版と違い、少しアクション的な部分を強調している気がします。
物語は今更である。名探偵エルキュール・ポワロがオリエント急行に乗り込む。雪崩で立ち往生した列車内で殺人が起こり、犯人を追い詰めていくというものだが、ラストの真相説明シーンに、まるで最後の審判のような構図を取ってみたり、ポワロが撃たれる場面があったり、やたら列車外に出る場面が多い。
閉鎖空間というクリスティのお膳立てを大胆に覆し、解放された中での画面作りにチャレンジしたのはわかるが、乗客のそれぞれの人物像の描写が弱くなり、結果、ラストの動機の説明シーンで混乱を生む結果になった。このあたりは流石にルメット版が数段優れている。
CGだろうか、美しい景色をバックに疾走するオリエント急行の絵は素晴らしいが、どこか嘘っぽさが目立ちすぎ、ここでも原作の人間ドラマを打ち消す結果になったように思います。
凡作ではありませんが、やはりシドニー・ルメット版が飛び抜けていたために影が薄くなったという印象です。
「太陽は見た」
物語の組み立ては完全に「太陽はいっぱい」であるが、役者陣の熱演で描き切ったという感じの一本でした。監督は井上秀夫である。
大富豪の老人の愛人であるが表向き娘ということになっている有紀は、海辺の別荘で暮らしている。しかしヨットの管理人の若者と知り合い、強引に抱かれてからいつの間にか引かれ合うようになる。
やがて、老人は有紀を娘として認知し、さらに老人の一人娘が登場するに及んで、次第に金への欲望が芽生えてくる。そして若者が一人娘を殺してしまったことから、有紀と青年は野心に突き進む。
同じくして老人は発作を起こして死んでしまい、何もかもうまくいくかに見えたが、一人娘が有紀と若者の情事の現場を撮った写真を子供が見つけ、怪しんでいた刑事がその様子を見つめてエンディング。
伊藤雄之助の老人の存在感が圧倒で、映画自体を面白くしている。やたら有紀の裸のシーンが出てきて、やや安易感が見えなくもないけれど、まぁまぁ観れる一本だった。