くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「フォーリング 50年間の想い出」「スパゲティコード・ラブ」

「フォーリング 50年間の想い出」

これはいい映画でした。編集のリズムがとっても心地よくて画面も美しく、何と言っても老人のウィリス役を演じたランス・ヘンリクセンが抜群に素晴らしい。人生の時間の流れを描いた秀作でした。監督はヴィゴ・モーテンセン

 

若きウィリスが妻グウェインを起こす場面から映画は幕を開ける。生まれたばかりの赤ん坊ジョンを抱いて家に入る。すでに二人目の娘サラがお腹にいる。微笑ましい場面。カットが変わると飛行機の中で目覚めた老人のウィリス。手洗いに行こうとして立ち上がるが、今は亡き妻グウェインを呼んだりし、傍の息子ジョンが宥める。老人ホームの下見に行きたいとカリフォルニアに住むジョンに言ったウィリスだが、何かにつけ悪態をつく。映画は、若き日のウィリスとジョン、さらにグウェインの物語と現在のやや認知症がで始めたウィリスの姿を交互に描きながら、ウィリスが歩んできた50年の人生を振り返っていく。

 

細かいカットの繋ぎのテンポが実にうまい上に、景色を捉えるカメラが美しい。自分中心に周りを仕切っていくウィリスの元を二人の子供を連れてグウェインは家を出ていく。一方、ウィリスは新しい恋人ジルと結婚する。大人になったジョンはゲイで、一人娘を育てながら夫としているエリックと暮らしている。そんなジョンにことあるごとに罵倒するウィリス。ジョンの妹のサラも家庭を持っていて、ジョンのところにきたウィリスのところに会いにくるがウィリスは彼女にも悪態をつくばかりである。

 

自分でジョンのところに行くと言ったにもかかわらず、結局北部の自分の家に戻ると言い出し、おりしも腸の手術をすることになって、術後自宅に戻る。すでに雪が降り寒々としていた。ジョンは間も無くカリフォルニアに戻る。カットが変わると雪の中で仰向けに倒れているウィリス。そばに可愛がっていた馬が寄り添ってくる。ウィリスは自分の上で歓喜の声をあげる全裸のグウェインの姿が見えている。映画はこうして終わっていく。

 

一人の男の人生が淡々と描かれていく流れがとっても蘊蓄もあり、見ていてしんみりと感動してしまいます。画面の美しさと音楽のリズムが奏でる人生ドラマという感じの作品で、とっても好感な一本でした。

 

「スパゲティコード・ラブ」

これは掘り出し物、とっても素敵な作品でした。毎日の人生にもがく13人の若者たちの今を淡々と描きながら現実の辛辣さと向き合って、希望を見出して一つに繋がる展開が見事。脚本が秀逸なのはもちろんですが、オーバーラップさせて描いていくストーリーテリングの上手い演出も素晴らしい。とっても爽やかさの見える青春映画でした。監督は丸山健志

 

一人の女性がゲームセンターで遊んでいると男の子がわめく声が聞こえる。その男の子を抱きしめるシーンからラブホテルで微睡むカップル、その二人が夜の街に出ると一人のストリートミュージシャンがギターを弾いている。カップルの男性が目を合わせる。二人は元恋人らしい。タクシーが停まっていて、そのそばを猛スピードでデリバリーの青年が走り抜ける。さっきのカップルの女性は援助交際をして日々を過ごしている。デリバリーの青年は、一人の地下アイドルのファンだが彼女が引退するということで千人のデリバリーが終わったら忘れられると頑張っている。カメラマン志望で東京に出てきた青年は、たまたま紹介してもらった臨時の仕事で、クリエイターの女性にボロクソにいわれる。その女性は親の七光りで今のデザイナーの地位にいるというもっぱらの噂の人物。

 

ここにネット占いにハマっている女性とその隣の住んで好きなバタージャムにハマっている女性、喫茶店で自分達がどうやって死ぬか延々と議論する高校生カップル。コンビニのテーブルで、宿題の人生設計に頭を悩ませている中学生。不倫をしていてその男に借りてもらったアパートでその男命で人生を楽しんでいるカフェの店員。それぞれが、毎日の生活にもがく姿を場面を切り替え、オーバーラップしながら物語を描いていく。

 

ミュージシャンの女性はギターを売ってしまう。援助交際を続ける女性は日々に疑問を感じている。カメラマン志望の若者のところにネットで知り合った女子高生が田舎から出てくる。七光で注目を浴びた広告クリエイターはカメラマンを罵倒した動画がアップされる。それぞれがもがいている中でいつのまにか希望を見出し、前に進もうとする展開がとにかく気持ちいいほど素晴らしい。

 

ギターを売ったミュージシャンはもう一度ギターを取り戻そうとするがすでに誰かが買って行かれていた。そのギターを持って元彼が訪ねてくる。不倫していた女性は男に捨てられ、行き場を失いタクシーに乗って自分を楽しませてくれるところへ行きたいという。タクシーの運転手は援助交際している女性とも関係していたが、良い場所もあるかもと答える。七光だったと責められたクリエイターはテーブルに辞表と書いて飛び出す。初めての写真を撮ってくれたのがボロクソに言ったカメラマンのスーパーのチラシだと思い出す。

 

ジャムにハマっていた女性はやり直すことを決意し、隣のネット占いにハマっていた女性とご飯でも行こうと意気投合する。そして、千件のデリバリーを終えたもののアイドルのことが忘れられない青年は路上でティッシュを配る元アイドルと出会う。死ぬことばかり考えていたカップルは、ジムで鍛えてみようかと笑いあう。全てが希望へ向かうラストシーンで映画は終わります。

 

とにかく、とっても素敵な映画です。絵作りも綺麗だし、演出のテンポも良い。何より、全然混乱しない物語展開が見事というほかありません。とっても良い映画に出会いました。