「日本沈没」(1973年版)
映画鑑賞ナンバー1番にしている作品をほぼ50年ぶりにスクリーンで見る。監督は森谷司郎、脚本は橋本忍。
とにかく懐かしい。小学校時代に見た ので、ほとんどシーンを覚えているが、やはり原作がしっかりしているので今見ても噓っぽく見えない理論武装された展開が見事。
民族の行く末を描く根本的なテーマもしっかり描写され、それでいてスペクタクルなシーンも満喫できる。高度経済成長の頂点にこそみる作品と言える映画でした。
「幻の湖」
東宝創立50周年作品らしいが、橋本忍が東宝に恨みでもあるのかと思えるような珍品映画だった。脚本監督共に橋本忍である。
お市という源氏名で雄琴温泉のトルコ(今で言うソープ)で働く道子が白い犬と一緒にランニングしているシーンに映画が始まる。お金を貯めて店を辞めるつもりで愛犬シロと毎日走る日々。彼女の素性などの描写は全くない。出入りの真面目な銀行員倉田に恋心を抱いているが、時々見かける笛を吹く男にも興味がある。
ある時、シロが何者かに殴り殺され、その犯人が有名な作曲家日夏らしいとわかり、執拗に東京まで追いかけていく道子の姿が中盤。そして、ジョギングに出た日夏をジョギングで追いかけ、振り切られてしまい、帰ってくる。
後半、突然、笛の男と出会った道子は、笛の男にいきなり戦国時代の笛のゆわれを延々と話される。ここが中盤から後半。
で、倉田と結婚するくだりで終わるかと思えば、店を辞める直前に来た客が、日夏で、延々と包丁を持って追いかけていくのがクライマックス。なんなんだ?
そして、追い抜いて、最後に包丁で刺す。場面が変わると笛の男はスペースシャトルに乗り宇宙にいる。そして笛を琵琶湖の上空に浮かべて、映画は終わっていく。
で、なんなんだ?とにかく、笑いとも失笑ともつかぬ展開がカルト的な作品として語られることになったのだろう。とにかく、呆れるほどの作品だった。
「旅路 村でいちばんの首吊りの木」
これは良かった。原作があるとはいえ、橋本忍らしいサスペンスの組み立てもうまいし、人間ドラマとしても非常に胸に訴えかけてくるものを感じてしまう。秀作でした。監督は神山征二郎。
山道で旅人らしい男女が一本の木を見上げている。昔、この村の一家七人がこの気で首をつったのだと話すが、枝が高くて、どうやったものか信じていない。そこを一人の女性美佐子が通りかかって映画が始まる。
美佐子の息子弘一のいる名古屋へ様子を見にいく支度をしている。娘紀美子同様、村を離れて都会で東大医学部を目指して勉強していたが、弘一は受験の失敗が続いていた。過疎が進むこの村では医者がいなかったために美佐子の夫は死んだのだ。その見返しのために子供達に医者になることを美佐子は求めた。
名古屋についた美佐子が浩一の下宿を訪ねると留守で、てっきり、付き合ってるらしい女性の所だろうと女性のマンションに向かう。そこで、その女性の上司深見と一緒になり部屋に入ると、そこに手首を切りとられて死んでいる女性の死体があった。
行方不明の弘一に容疑がかかるが、断固として否認する美佐子。捜査も進まない中、ある時、美佐子の村で雪崩が起こる。そしてその雪崩から弘一の死体が出る。しかも解剖すると胃の中から鍵が出てくる。いよいよ謎が深まる中、紀美子の入試は無事に終わる。
紀美子は母に手紙を出す。それは今回の事件の自分なりに考えた謎解きだった。母美佐子が最初に女性に部屋に入り、手錠でつないで自殺した弘一と恋人を見つけたのだ。美佐子は、自殺で済ませて紀美子の受験に差し障ってはいけないと、手首を切り殺人に見せかけ、弘一の死体は車のトランクに積んで村に戻った。
弘一の恋人はおもちゃメーカーに勤めていて、自分が考えたFBIセットの道具の中の手錠で二人をつないだのだ。弘一から出てきた鍵はその手錠のものだった。美佐子は最初に発見し、ボタンを落としたことに気がつき戻ったがそこで深みに出会ったのだ。そして深見も現場のボタンに気がついていたし、鍵の謎も分かった。
美佐子は深見に口止めするつもりもあって、再度会い、体を重ねてしまうが、深見は美佐子への純粋な愛情が芽生えてしまう。そして深見は紀美子に会い、母に自首するよう進めることを提案したのだ。
しかし、ほとんど正しい紀美子の推理だが、本当は弘一の恋人の女が憎いだけで手首を切ったと告白。間も無くして手首も発見され、刑事達が美佐子のところにやってきて、出頭を促して帰る。
雪がしんしんと降る中、美佐子は縄を首吊りの木にかけ、自殺する。雪が積もれば容易に縄をかけることができるのだ。
春が来て、紀美子が墓参りにやってくる。映画は彼女の一人語りで終わる。単純なサスペンスの背後に、母の思いが錯綜するストーリー展開が素晴らしい一本で、グイグイと胸に迫ってきます。なかなかの力作、見事でした。