くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「野良犬」(4Kマスター)「下町の太陽」「私たちの結婚」

kurawan2017-10-17

「野良犬」(4Kマスター)
やはり黒澤明は凄い。何十年ぶりかで見直したけれど、改めて、怖いほどの演出に圧倒される。それに、サスペンスの面白さもさることながら、人間ドラマが半端ではないために、スクリーンに釘付けになり涙が溢れてきます。これが抜きん出た傑作と凡作の違いでしょうね。身動きできないくらい打ちのめされました。

物語は今更ですが、新人の刑事が電車の中でピストルをすられるところから物語が始まる。何とか手がかりを得ようと日夜うらぶれた身なりでうろつく三船扮する主人公の映像が延々と続くが、やっと、なにがしかのきっかけをつかんだところで、盗まれたピストルで犯罪が行われる。

ベテラン刑事の志村喬と組んで犯人を追い詰めて行くが、少し前進したところで、今度は殺人事件が起こる。三船の恐ろしいほどの焦りの演技の凄まじさもさることながら、脇役が背中で演じる演技の素晴らしさに息を飲む。

そして犯人を追い詰めて行くクライマックス、志村喬が犯人のねぐらに到着、激しい雨、電話をかけるが、聞こえづらく、そこへラジオの音楽が流れ、さりげないセリフで犯人が警察が来たことを知り逃げる、追いかける志村がうたれる。

残った三船は志村の手術が無事にすんでも病室から離れられず、とうとう犯人の女から、待ち合わせの駅を教えられる。そしてラスト、追い詰めた三船は犯人に残る弾を自らを標的に撃たせる。庭の向こうでピアノが流れ始める。有名なラストシーンである。

そして三船が手錠をかける、傍を小学生がちょうちょの歌を歌ってさる。花を見上げた犯人が号泣する。ここで涙が溢れた。この犯人も幼き日があった。チョウチョを見て遊んだ日々があった。なのに今自分が手錠を嵌められている。このラストがすごい。こんな脚本は凡人にはかけないと思う。

そしてエピローグ。病室腕志村を見舞う三船のカットでエンディングである。これが名作。これが映画史に残る傑作。作って見たくなる映画。


「下町の太陽」
この前年に「キューポラのある街」があるために見劣りしてしまうが、かなりの傑作である。山田洋次監督の長編第一作。

主人公町子は下町の貧乏暮らしで、石鹸工場の女工である。彼女には正社員ではないサラリーマンの恋人がいる。ここに下町の鉄工所の工場で働く青年が彼女たちのグループと関わり始めるのが物語の中心となる。

橋を遠景で捉えるカットや、堤防を舞台にしたストーリー展開など「キューポラのある街」を意識したと言われても仕方ないかもしれないが、そこは作り方がやはり山田洋次浦山桐郎監督とは根本的な違いも見える。

さりげない下町の人々の機微が、老人たちが集い日向ぼっこするカットに町子が絡んだり、町子の弟がちょっとしたおもちゃを友達と盗んだり、実にさりげない空気感を描いて行く様がうまいというほかない。これもまた名作と言える一本なのだ


「私たちの結婚」
篠田正浩監督作品ですが、下町の人々の話で、「下町の太陽」と似通った作品でした。

会社の経理課に勤める圭子のところの一人の若者駒倉がやって来て、給与計算が違うからと文句をつけにくるところから映画が始まる。圭子には世話焼きの妹冴子がいる。両親は海苔の養殖をしているが生活は芳しくなく、貧乏暮らしである。

ここに都会の会社に勤める古い知人の松本がやって来て、圭子に交際を申し込むから話がややこしくなってくる。ピュアな恋愛を夢見る冴子は貧乏でも美しい恋愛を成就させたく駒倉と圭子の仲を取り持とうと奔走するが、結局、圭子は誠実でそれなりの収入のある松本のところに行くことにする。

まじめに、当時の生活色を描いた秀作で、しっかりと作られているのが見事。クオリティの高さがくっきり見られる作品とい感じの映画でした。