くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「みだれ髪」「偽れる盛装」

kurawan2018-01-15

「みだれ髪」
泉鏡花原作の映画ですが、かなり荒い脚本とストーリー展開の一本。監督は衣笠貞之助ですが、作品的には中レベルのものでした。

材木問屋の夏子が板前の愛吉の喧嘩の巻き添えで大怪我をし病院に担ぎ込まれるところから映画が始まる。その病院の若先生光起と夏子は間も無く恋仲になるが、密かに夏子を慕う愛吉の姿を中心に話が進む。

しかし時は明治末期で、身分の分け隔ても厳格な中、夏子は光起と結ばれることはなく、また火事にあったり借金が溜まったりで不幸続きの夏子はやがて芸者になる。

そんな夏子を慕い続ける愛吉だがすることすることが裏目になり、とうとう、誤って夏子を刺してしまった愛吉は自ら命を絶つ。

おそらく原作はもっと素晴らしいのだろうが、かなり荒っぽく脚本化したために、その良さが出なかった感じです。衣笠貞之助の映像演出の妙味も少なく、普通の出来栄えの一本でした。


「偽れる盛装」
吉村公三郎監督の代表作の一本にして名作を見る。全体にしっかりと仕上げられた作品の貫禄は見事で、終盤までの静の展開からクライマックス一気に動のシーンが挿入されてのラストシーンへの畳み掛けは見事なものである。

次々とお座敷を巧みに回って男たちから金を巻き上げる売れっ子芸者の君蝶の場面から映画が始まる。妹の妙子は実直な事務員で、茶屋の養子であるが生真面目な孝次と恋仲である。しかし、妙子の茶屋の格が違うからと孝二の母親から結婚は許してもらえない。

一方、姉妹の母親は気がいいばかりに、自分の家を抵当にしてかつて世話になった旦那の息子の金の工面に応えてやることになり、とうとう借金ができてしまう。

そんな家族を救うために必死で男に金をせびる君蝶の姿が物語の中心だが、淡々とこなして行くドライな君蝶の姿と、不甲斐ない男たちと言う構図がとにかくおもしろい。

終盤、君蝶に袖にされた男が逆恨みして君蝶に包丁を向けて追いかける場面の移動カメラのシーンが、それまでの落ち着いたカメラワークと一転して見事にクライマックスを飾る。この辺りのリズム感が名作ゆえの技量かもしれません。

ラスト、病院で入院する君蝶は、これをきっかけにこういう商売をやめることに決め、妙子は孝次と東京へ出て行って心機一転を目指す。妙子と浩次が橋を歩いて駅に向かうシーンでエンディング。このラストはなかなかのものである。

スタンダードながら、奥行きのある画面作りと美しい構図はさすがで、一見の価値のあるう一本でした。