くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「伊藤くんAtoE」「悪と仮面のルール」

kurawan2018-01-18

「伊藤くんAtoE」
もっと箸にも棒にもかからない映画かと思ったが、意外とのめり込んでしまった。おそらく原作がいいのだろう。それにクライマックスの岡田将生木村文乃の長ゼリフの掛け合いのワンカットが素晴らしい。監督は廣木隆一

シナリオセミナーでシナリオライターの矢崎莉桜が講義をしているシーンに始まる。かつてヒットドラマを書いたこともある莉桜だが、すっかりスランプになっていた。

そこで、彼女の元にきた恋愛相談の女性の話をAからDに分けて、掘り下げてドラマの新作に望むことを考える。映画は、そんな執筆の中に出てくる女性と現実の女性の話を取り混ぜて展開して行くが、話の中に共通して登場するのが伊藤という男性で、小説ならわからないが、映像になると全て同一人物と最初からネタバレする。

何とも調子が良くて、それでいてどこか常に逃げ腰の伊藤という青年が実にコミカルなのだが、全て同一人物であるのに莉桜らが気づくのはラストという流れになっている。しかも、シナリオセミナーの生徒でもある伊藤は莉桜が書いているのとそっくりのシナリオを書いて、莉桜が持ち込んでいる局の選考に出すというのだ。

結局二つとも却下されるのだが、終盤、伊藤と莉桜がお互いの考え方を延々と戦わせるシーンが素晴らしく、岡田将生の演技力に改めて圧倒されてしまった。

一見、コミカルなドラマかと思いきや、意外に奥が深く、その面白さに、終盤はすっかり引き込まれた。前半の女たちのドラマシーンが割と平凡なので引いていたが、ラストで挽回したという感じです。掘り出し物だったかもしれません。


悪と仮面のルール
しんどい、とにかくくどくどと語って行くシーンが続く脚本のくどさに参ってしまった。根幹になるストーリーが最後の最後までわからなくて、ラストシーンでようやく、プラトニックなラブストーリーだったのだとわかった。監督は中村哲平

一人の男が整形手術を終えて、新しい顔になったシーンから映画が始まる。財閥の久喜家に生まれた主人公文宏は顔を変えて新谷弘一となった。そして久喜家のお抱えの探偵に近づき、かつて一緒に過ごした幼女香織の行方と、久喜家の現代の状況を探ってもらう。

この導入部からひたすら暗くて延々と説明シーンが繰り返されるので、ピカレスクロマンかと思うのだが、文宏は決して腕力が強いわけでもなく、それほど裏の社会に通じている空気感もリアリティもない。この中途半端が、さらに彼の周りに近づくテロ活動家の青年や新谷を追う刑事の登場でかき乱されて、物語の本筋がぼやけて行くのです。

結局、この文宏がやりたいのは、幼い日々、ほのかな恋心のあった香織を守るために、彼女に危害を加えてくるらしい人物を殺して行く話のようだと中盤でやっと気がつく。

そして、久喜家の当主も殺し、香織を安全にした文宏は香織と最後の別れをしてエンディング。果たして、顔を変える必要はあったのだろうかとさえ思うのです。

長台詞で繰り返し説明する文宏と香織の過去や、久喜家の異常さも今ひとつロマンに欠けるし、どこかチグハグな感じで、ラストに向かっていかない脚本がもどかしい。もっとシャープに組み立て直したら、とっても素敵な物語になったかと思うと残念な一本でした。