くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「お父さんと伊藤さん」「グッドモーニングショー」

kurawan2016-10-12

「お父さんと伊藤さん」
うざい映画だった。というのが第一印象。脇役が弱いために、物語の本筋が盛り上がって来ない。見せたいこと、伝えたい物語が引き立たないままに、ただめんどくさい老人の物語に終始してしまう。監督はタナダユキなので、凡作とまでは落ちないし、キラッと光るショットや映像は見られるが、全体がダラダラと行き場のない老人に焦点が当たっているのは、見ていられない。

映画は主人公彩がコンビニでバイトしているシーンに始まる。そこで知り合った伊藤という中年オヤジとやがて同棲し始める。そこへ兄からの連絡が入る。

子供の受験勉強で忙しいので同居している父をしばらく見て欲しいという。彩は断るのだが帰ってみると、ちゃっかり父親が家に来ている。とにかくこの父親がウザいのだ。その導入部から、要するにこの父親と彩、そしてその兄の家族の物語を描くべく、傍に伊藤さんという他人が存在している構図でストーリーが進む。

父が大事そうに持って来た段ボール箱の中身が何なのかという謎を物語の随所に挿入して、ストーリーにスパイスを作るのだが、いまひとつ、じゃあ何なのという本来の話が引き立って来ない。

彩は父と伊藤さんと3人で1日映画を見たり、ボーリングをしたりするが、帰りがけ、伊藤さんは父をホームセンターに誘う。最新の工具などに興味を持つ父の姿を描写するが、これもいまひとつ引き立たないし、ラストで小道具になるビワの木のエピソードもこの後生きて来ない。

突然姿を消した父は、かつての実家にいて、そこへ彩と兄と伊藤さんがやってくる。帰る日の朝、低気圧の接近で、雷が庭に落ち、柿の木が燃え、そのまま家が燃える。そして、彩の家に戻る父。

そして突然、老人ホームに入ると家を出て行く。その父を送る彩の姿でエンディング。父が持っていた箱には大量のスプーンが入っていて、家が火事の時、箱が破れ舞い上がるシーンがある。父は万引き常習犯でスプーンを万引きしていたというエピソードが中盤にある。しかし、結局スプーンの謎は明らかにならない。

結局、家族の心のドラマがこちらに伝わって来ないし、父の堅苦しい横暴さだけが引き立って、それを柳のように受ける伊藤さんのドラマもいまひとつ全体に生きて来ない。上野樹里の彩の存在感もいまひとつ際立たない。だから結局父のウザさに戻ってしまって、映画がうざくなったという感じです。凡作ではないけれど、佳作でもない。という感じの一本でした。


「グッドモーニングショー」
面白いのですが、時としてリズムが微妙に狂う。走り抜けるべきところが間延びする。非常によくできた映像なのですが、脚本が後一歩、ほんの僅かに練り足りないのが本当に残念。監督・脚本は君塚良一です。

モーニングショーでメインキャスターを務める主人公澄田の場面から映画が始まる。息子は学生だというのに恋人を妊娠させて結婚するという。出勤途上のタクシーの中ではアシスタントの小川から、責任とってくださいと迫られるが、ただ一緒に飲んだ程度の仲である。スタジオに着いたら、間も無く今の番組は打ち切りになると宣告される。

そして始まる放送。小川との微妙でコミカルな駆け引きがとにかく面白いし楽しい。長澤まさみは上手くなったものだなと思う。そこへ、カフェに猟銃を持った男が立てこもった事件のニュースが入る。澄田たちはワイドショーであるが、一方で報道という昔気質の部署から何かにつけ上から目線を浴びている。このやり取りがもう少し面白ければいいのだが、全く生きていない。

やがて犯人から、澄田を連れて来いという。身に覚えがないものの現場に行った澄田は犯人の前に立つことに。犯人西谷を演じた濱田岳が、今回は非常によくない。本当に薄っぺらく見えるのだが、それが脚本の意図か演出の意図か不明。

澄田と西谷の会話の中で、澄田の妻や息子への言葉や、バラエティ番組に対するコメントなど、聞かせるべきセリフが盛り込まれているのだが、いまひとつ訴えかけて来ない。

スタジオの小川とのコミカルなやり取りが後一歩というところでカットが変わる感じで、ほんの僅かに物足りない。

最後は、視聴者に、犯人は死んで欲しいか死なないで欲しいかというアンケートをし、死んで欲しいがリードするが、編集で逆にして放送、犯人は投降する。このくだりが実に薄っぺらいのである。何か弱い。

結局このまま物語は収束してエンディング。君塚良一なので、もう少し練られた映画を期待したのですが、ちょっと期待しすぎたかな。それより中井貴一がどうも演技感がこの作品では生きていなくて、微妙にタイミングや演技の長さがテンポに欠けている。

全体に、出来は悪くないけど今一歩、そんな作品でした。