くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「皆殺しの天使」「ビリディアナ」「アンダルシアの犬」「砂

kurawan2018-03-07

「皆殺しの天使」
37年ぶりに見直したルイス・ブニュエル監督作品の代表作。不条理劇の傑作と呼べる一本ですが、正直、なんと感想を書くのか今回も分からなかった。

あるブルジョアの邸宅に、オペラの鑑賞を終わり招待された人々がやってくるところから映画が始まる。長年仕えた執事などがこの邸宅を去るというさりげない台詞の後、やがて宴が始まる。いきなり前菜を床にばらまく展開。

そして深夜、宴会が終わるが、なぜか誰も帰ろうとしない。そしてなぜか帰れないことに気づき始める。

一方外からも、この邸宅に入れない。壁があるわけでも何かに阻まれるわけでもない。邸宅の中では次第に食料や水が尽きてきて、人々の争いなども起こり始めるが、ある瞬間、いつの間にか、宴会が終わる一瞬と同じ位置にみんなが戻っていることに気がつき、そのまま外に出る。

そしてカットが変わると教会、なぜか人々が教会から出ることができなくなり、次のカットでは大勢の群衆が争いながら、空間の中に溢れている。そしてエンディング。

世界を一つの縮図のように風刺したものか、人間の心理の閉塞感を具象化したものか、その真意は私のような凡人には分からないけれど、映像全体に流れる独特のリズム感こそがこの映画の評価ではないかと思います。


ビリディアナ
こちらも37年ぶりに見直したルイス・ブニュエル監督作品。内容はほとんど覚えていなかったが、なるほど評価に値する一本でした。

主人公ビリディアナは、修道院に入るために叔父の家でしばらく暮らす。
しかしこの叔父は実はビリディアナに亡き妻の面影を抱いていて、なんとか結婚してもらえないかと迫るのだが、そんな叔父を放って修道院へ向かう。ところが悲嘆した叔父は自殺、ビリディアナ修道院へ入ることをやめ叔父の家に住むことにする。

そこへ、叔父の息子がやってくるが、その息子は女好きで、彼もまたビリディアナに言い寄ってくる。ビリディアナ修道院に入れなかったものの近隣の浮浪者を家に招き施しをしようとする。

最初は感謝され、ビリディアナの言う通りになっていた浮浪者だが、たまたまビリディアナが街に出かけた日、本宅に入り込み勝手に宴会をする。早めに戻ったビリディアナは危うくレイプされそうになる。

翌日、これまでの自分の理想が次々と崩されるに及び、叔父の息子の誘惑を受け入れ、彼のそばでカードを始める姿でエンディング。

当時の教会関係が上映禁止を指示したという作品ですが、ビリディアナの清純な思惑が次々と崩されていく現実を描いている点を問題視したのでしょうか?いずれにせよ、映画としてのしっかりとしたリズム感が完成されているなかなかのいっぽんでした。


「アンダルシアの犬」
アヴァンギャルド映画の傑作としてルイス・ブニュエル監督の代表作の一本。短編サイレントですが凝縮されたシュールな映像の数々と展開の奇抜さに引き込まれてしまいます。

一人の理髪師がカミソリを研いでいるシーン、ベランダに出ると月が出ていて雲がかかってくる。いつの間にか一人の女性の目元にカミソリが当てられていて、月にかかる雲の動きに合わせてカミソリが動き、目が潰れて液体が流れタイトル。名場面である。

一人の道化師が自転車に乗っていて、こけて一人の女に助けられ、部屋に入る。男の手からアリが這い出てきて、女に迫り時間が遡り、あとはもうストーリーがあるのかないのか不思議な物語が続いて映画は終わる。

サルバトール・ダリも脚本に参加しただけあって、シュールなカットが溢れているし、突然16年前に遡ったりするジャンプカットも面白い。評判だけのことはある傑作でした。


「砂漠のシモン」
ルイス・ブニュエル監督の中編で、今回劇場初公開ということでしたが、私は約40年前に見ているから、多分自主上映だったのでしょう。

物語は聖人シメオンの伝説を元に描いた宗教物語として終盤まで展開していく。

塔の上で、ほとんど飲まず食わずで苦行するシモン。次々と悪魔の誘惑が彼に迫ってくるがその度にキリストの名において退けていき、その度に必ず仕返ししてやると悪魔は去っていく。

そしてラスト、棺に潜んだ悪魔の女がシモンのそばにやってきてこれが最後だという。そして飛行機が迫りカットが変わると大都会のダンスホールにシモンがいる。

踊り狂う若者たち、酒を飲むシモンの姿はすでに伸びたヒゲも短く整えられ一人の青年になっている。そして、そろそろ戻るというシモンに女は、もう戻れないとつぶやき踊り始めてエンディング。

風刺の効いたラストと取るべきかどうかは、平凡すぎる気がしますが、さすがにブニュエルの感性は独特かもしれません。