「トレイン・ミッション」
一級品ではないけれど、かなり面白かった。あと一工夫、何かをプラスすればトップクラスのサスペンスになっていた感じの映画でした。監督はジャウム・コレット=セラ。
主人公マイケルは警察を辞めて保険会社で働いている。同じ時間に起きて通勤列車に乗る毎日がハイスピードで描かれて行く。そしてある日、突然解雇される。意気消沈し、昼間から元同僚のマーフィーを呼び出し飲んでいる。そして、帰りの列車に乗るが、ひとりの女性ジョアンナが近づいてくる。この場面までに日ごろ見かけていた乗客のさりげないドラマの伏線を挟んでいる脚本がうまい。
ジョアンナはマイケルに、この列車に乗っているひとりの人物プリンとそのカバンを探したら高額の報酬を支払うと告げて去って行く。まさかと思ったマイケルは女が言った洗面所で大金を見つけ、女の依頼を試して見ることに。ところが、何やら彼は監視されていることに気がつき、危険を感じたマイケルはいつも乗っている常連客に通報を依頼するが、その客は、駅で降りたあと交通事故に見せかけられて殺されてしまう。
ここまでの導入がまるでヒッチコック映画を思わせる。ハイスピードの列車の映像と、狭い室内の映像を繰り返した画面作りも面白い。
しかも、マイケルの妻と息子も人質に取られたかの連絡も入る。マイケルは、これまでの経験を生かし、プリンと呼ばれる人物を探し始める。この展開が中盤で、如何にしてプリンを見つけるのかがサスペンスになるが、プリンが殺されるという真相に近づいたマイケルは、列車に乗っていた男を倒し、プリンを守る立場になる。
プリンは、先日起こった市役所職員の自殺事件でその真相の目撃者らしいことがわかる。そして警察が絡む事件で、警察、あるいは上層部の権力者がプリンを消そうとしているらしいとわかるが、マイケルに指示してきた女は、乗客全員を殺すという作戦に転換、ここからアクション映画の様相を帯びてきて、列車の脱線事故で殺されるところをマイケルらが危機一髪で回避し、最後に警察に取り囲まれるが、マイケルらがプリンを渡さないことで列車内に立てこもり、誰が味方変わらない中、市役所職員を殺した真犯人がマーフィーだとわかるクライマックスへ。
そしてプリンはひとりの女性で、彼女が信頼したFBI捜査官ガルシアが最後の最後で助けて大団円。無事保護された乗客たちのエピローグ的なドラマを挟んで映画が終わる。最後まで手を抜かない脚本もなかなかで、娯楽映画としては傑作に分類できる一本でした。もうちょっと、何かがプラスされれば大傑作になったかもしれない。そんな一本でした。
「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」
さすがに、スティーブン・スピルバーグ監督のストーリーテリングのうまさに感服してしまいました。一見煩雑な導入部でありながら、みるみる登場人物が浮き上がってきて、物語が一本の線に乗って行く演出というかリズム感に感心してしまう。しかも、演ずるのはメリル・ストリープとトム・ハンクス、圧倒される物語にどんどん重みが加わって行くすごさに唸ってしまった。
物語はベトナムの戦場に始まる。いかにも泥沼状態になった戦場、カットが変わると大統領専用機の中、国防長官ロバート・マクナマラが、戦場を体験してきた男を読んで一切の状況を聞いている。大統領への報告が、万事順調とされたことに怒りをあらわにするマクナマラ。
ある政府の機密文書の保管庫にひとりの男ダンが、ベトナム戦争の報告書類を持ち出しコピーを進めている。それは、マクナマラがことの真実をまとめた文書だった
場面が変わると、一地方紙ワシントンポスト。夫の死で仕方なく社主となったキャサリンは、役員たちからも認められない中、元々の人脈を維持し、新聞社の株式公開に向けて奔走していた。唯一、相談相手になっているのが敏腕の編集主幹ベンだった。
ある時、ニューヨークタイムズが、ベトナム戦争の報告書を掲載、トップ記事を出す。それに対抗して、この文書を手に入れようとベンらが奔走卯するのが前半。そして、情報元がダンだと目星をつけたワシントンポストのバグディキアンがダンから全ての文書を入手、掲載の準備に入るのが物語の本編となる。
すでにニューヨークタイムズには、記事の掲載を見送るようにという司法からの圧力がかかり、ここでワシントンポストが掲載すれば、法廷侮辱罪にもなりかねないと役員らも心配するが、悩んだ挙句キャサリンは掲載を決意する。この意思決定の微妙な心の動きが、流石にメリル・ストリープの名演で際立つ。
そして掲載。思った以上に反響が広がり、最後は法廷でも認められ、ワシントンポストは英雄視される。
映画はエピローグとして、ウォーターゲート事件のさわりに入り込んで終わる。
社会派ドラマではあるが、どこか単純なサスペンスに見えなくもないのがスピルバーグの限界かもしれませんが、流石に見事な映画でした。