くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ラッキー」「スローガン」「香港製造メイド・イン・ホンコ

kurawan2018-04-12

「ラッキー」
本当にいい映画です。淡々と進む映像ですが、なんとも言えない心の動きがしみじみと伝わってくる。とは言っても、ストーリーのその淡々さが不思議に眠気をもよすことも確か。監督はジョン・キャメロン・リンチ。

ある朝、一人の老人がベッドで目をさます。いつものようにコーヒーを入れ、軽くヨガをして、いつものように服を着て出かける。近所のバーで仲間と雑談をし、いつもの店でコーヒーを飲み、軽く悪態をついても、いつものことさとみんなが挨拶がわりに受け答えをする。目の覚めるような青空と立ち並ぶサボテン、荒涼とした大地
1匹の亀が藪の中をゆっくりと歩いていく。仰々しいほどのどでかいタイトルがかぶる。

この導入部分が実に美しいし、この後も決して映像がぶれることなく繰り返されていくが、ある朝、主人公の老人ラッキーは倒れる。病院へ行ってみたがいたって健康で、単なる寄る年波の出来事だと告げられる。しかし、ラッキーの心に不思議な不安が浮かび始める。

過去の思い出がさりげなく心に浮かび始める。夢の中で友達がいずこともなく赤い出口に消えてしまう。心配して尋ねてきてくれた女性に、怖い、と呟いてしまう。

いつものバーでいつもの会話をしている。タバコを吸ってはいけないバーだが、吸ってやると出口で吸い、そのまま外に出る。植物園が閉園になっていて、巨大に成長し、所々朽ちかけているサボテンを眺め、どこか自分のこれからに決心したように振り返って去っていく。何処ともなく亀がフレームインしてエンディング。

うまい。映画の作り方というのはこれだと思う。美しい広々とした景色の構図がしっかりしているし、人物の配置も決まっていて美しい。誰もがラッキーに親しみを持っている。どこかほのぼのするほどの空気感がたまらなく美しい。いい映画です。


「スローガン」
典型的なフランス映画という感じで、独特のフランスファッションを楽しむレベルの作品でそれ以上でも以下でもない。セルジュ・ゲンズブール生誕90年という不思議な企画の映画だった。監督はピエール・グランブラ。

ローションのCMフィルムのシーンから映画は始まる。撮ったのはセルジュでベネチアの映画祭で賞を取る。そこで一人の女性エブリンと知り合い恋に落ちる。

セルジュには妻も子供もいるのだがすでに冷めている。物語はセルジュとエブリンの恋の物語がベネチアを舞台に繰り広げられる。フランス映画らしい馬鹿騒ぎシーンが多いが、これも映画の色と思うと楽しめてしまう。

やがてセルジュとエブリンの関係もギクシャクしだし、二年後、再びセルジュはベネチアで賞をとるが、その帰り道一人の女性と知り合い、恋の予感がして映画が終わる。

それほど優れた作品ではないけれど、セルジュ・ゲンズブールジェーン・バーキンの存在感を楽しむ作品でした。


「香港製造 メイド・イン・ホンコン」
ちょっとした青春映画の秀作でした。ほとばしるようなキラキラしたスタイリッシュな画面作りと、一瞬に燃え尽きる若者の姿が、ややあざといながらも縦横無尽に駆使したカメラ演出で見せていきます。監督はフルーツ・チャン。4Kリマスター作品です。

学校では落ちこぼれ、バスケットボールをしながら借金取りの手伝いをする主人公チャウの姿から映画が始まる。彼はイジメにあっている知的障害のロンを可愛がり、いつも一緒に行動していた。

ある時、借金の取り立てに行った家で一人のショートヘアのペンと知り合う。また、ロンはサンという少女の飛び降りの現場に居合わせ、二通の遺書を手にする。

こうして、チャウとロン、ペンの三人は友情が芽生え一緒に遊ぶようになる。しかし、ペンは腎臓が悪く、移植できないと余命いくばくもない体だった。

チャウは、ウィン兄貴の下で仕事をしていたが、事あるごとに殺人の仕事もして見るように言われる。チャウはサンの遺書を手にしてから、何かにつけ事件に巻き込まれ、毎晩のように夢精を繰り返すようになる。

チャウはペンに恋心を抱き、彼女の家の借金を肩代わりしようとしたり、取り立てに来た男を追い返したりもするが、このことで、ある時チャウは襲われ重傷を負う。

7時間の大手術の末なんとか助かったチャウだが、退院してくると、ロンは麻薬の運び屋をやらされていて殺され、ペンも病気が悪化して死んでいた。自暴自棄になったチャウは、ロンに運び屋をやらせたウィン兄貴をピストルで落ち殺し、サンの遺書を両親に送ってやり、自分を襲わせた男を撃ち殺し、ペンの墓の横で自殺する。折しも友人のキョンの結婚式の日だった。

細かいカットの切り返しや色彩処理した画面、クローズアップや斜の構図や奥に伸びる廊下のカット、現実と想像の映像のオーバーラップなど巧みな演出の数々が見事な作品で、若干ストーリー構成が終盤くどいながらも、前半のドキュメントタッチの映像からどんどんスタイリッシュに変わる展開の妙味は見事です。なかなか見ごたえのある青春映画という感じの一本でした。