くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「鵞鳥湖の夜」「花様年華」

「鵞鳥湖の夜」

噂通りの傑作でした。ハイスピードなストーリー展開とカメラワークの見事さ、さらに光と影を縦横無尽に使った映像演出に引き込まれてしまいました。監督はディアオ・イーナン。

 

深夜の高架下、一人の男チョウが佇んでいる。そこへオーバーラップする様に現れる一人の娼婦アイアイ。彼女はチョウの妻のシュージュンは来ないと告げる。チョウはアイアイに一昨日の夜の出来事を話す。このオープニングの映像がまず美しい。

 

一昨日の夜、チョウは仲間内のバイク窃盗団の集会に出た。縄張りを割り当てる段階で若い猫目と呼ばれる男がチョウの縄張りの一部をよこせと言い出したことからチョウの舎弟が銃で猫目の仲間の足を撃つ。そこで乱闘となり、その落とし前に、チョウらのグループと猫目らのグループの窃盗合戦をすることに。しかし猫目の仕掛けた罠でチョウの舎弟が死に、チョウも命を狙われ、瀕死の中発砲した銃が警官を撃ち殺してしまう。

 

チョウには多額の報奨金がかけられて、仲間内をも敵に回す。そんな経緯をアイアイに話したチョウは、なんとか妻シュージュンを呼び出してほしいと告げる。アイアイは、チョウの舎弟でシュージュンの弟ヤンに頼まれ、シュージュンの居場所を突き止めて連れてくるはずだったが、シュージュンは警察に情報を流し、その銃撃でヤンは瀕死の重傷を負ったのだと言う。

 

チョウは自分の報奨金をシュージュンに与えると言う計画を立て、シュージュンに自分を密告する様にするべくアイアイと鵞鳥湖の再開発予定の雑居地帯に逃げ込み、シュージュンと会う手筈を進めようとする。

 

一方警察もリウ警部をリーダーにチョウを鵞鳥湖周辺にいると判断して捜査の範囲を狭めてくる。一方猫目たちも報奨金目当てにチョウを追い詰めてくる。そんな状況で、アイアイに裏切られたり近づかれたりしながらの逃亡劇が描かれていくが、雑多な店舗や人々、さらに駆け巡るバイク群を見事に捉えながらの光の演出が素晴らしく、さらに、逃げるチョウの影の演出が見事。

 

そしてとうとう追い詰められたチョウは警官に撃ち殺され、報奨金はアイアイの手に入る。リウ警部に送られるアイアイは、警部と別れた後、シュージュンと会い、二人で歩いていく姿をリウ警部が見送る様に映画は終わっていく。

 

とにかく、光と影を徹底した映像演出が見事な上に、オーバーラップして交錯するカメラワークも秀逸。ストーリー展開もテンポが良い上に、雑多な鵞鳥湖の周辺の舞台設定も抜群の効果を生んでいます。久しぶりに、見事な作品を目の当たりにしました。

 

花様年華

めくるめくような陶酔感に浸ってしまう夢の様な映画。物語は不倫ドラマだが、そこには大人の節度が存在して、それでいてプラトニックな危うさも垣間見られる。細かい暗転を繰り返す時間軸の流れがいつのまにか切ないほどの時の流れを生み出し、赤を基調にしたエロティシズムが見ている私たちになんとも言えない男と女の欲望を想像させる。これが恋愛映画なのか。見事な一本でした。監督はウォン・カーウァイ

 

一軒のアパートに引っ越してきた一人の女性チャン。そこへ一人の男性チャウも部屋を探しにやってくる。こうしてチャン夫人とチャウは同じアパートの隣同士となる。しかも引っ越しの日も同じで、狭い廊下を右往左往しながら荷物が運ばれて、否が応でもチャウとチャン夫人はすれ違い、知り合いになる。

 

チャウは出版社に勤め、彼の妻は頻繁に仕事で主張して、ほとんど姿を見せない。一方のチャン夫人は会社の社長秘書をしているが夫は常に海外赴任している。映画は細かい暗転を繰り返し、チャウの妻が他の男性と会話している様子を描き、一方のチャン夫人の夫も何やら女性の影を見せるがそれぞれはっきりとその姿を画面に見せない。

 

やがて、チャン夫人とチャウは頻繁に近づく機会が増え、話すうちに、お互いのパートナー同士が不倫関係にあることを知る。そして、チャン夫人とチャウは次第にその関係を近づけていくが決して一線を超えないまま、プラトニックな不倫関係へと発展していく。

 

細かい暗転とカットを挿入しながら時が流れ、やがて、それぞれは別れていく。久しぶりにシンガポールから戻ったチャウはかつての部屋にやってくる。実はチャン夫人がその部屋を借りているが結局出会うこともなく映画は終わっていく。時の流れが過ぎ去っていったと言う様なテロップがでて映画は終わる。

 

不思議なほどに切なくもまどろこしい大人の恋愛ドラマである。引き込まれていく陶酔感は終盤流石に眠くなってくるがそこが監督の意図ではないかとさえ思ってしまう。良い映画でした。